AI概要
【事案の概要】 労働組合(D支部)の執行委員である被告人A及び組合員の被告人Bが、日雇運転手Kの子の保育園継続利用に必要な就労証明書の作成・交付を株式会社Hの取締役Lに要求した事案である。被告人らは平成29年10月以降、H社事務所を繰り返し訪問し、団体交渉の開催や就労証明書の作成等を求めた。11月27日にはLが高血圧緊急症を発症して救急搬送される事態となったが、その後もほぼ連日訪問を続け、12月4日には被告人AとF(共犯者)がLに対し怒号を伴う強い言辞で就労証明書の作成等を要求した。第一審は被告人両名に強要未遂罪の成立を認め有罪としたが、控訴審(差戻し前)は一部を除き原判決を破棄し、上告審(最高裁第一小法廷)は控訴審の検討が不十分として大阪高裁に差し戻した。本件は差戻し後の控訴審である。 【争点】 (1) H社に就労証明書を作成等すべき義務があったか、(2) 11月27日のLの体調不良後の被告人両名の要求行為が脅迫に該当するか、(3) 11月28日以降の訪問・要求行為及び監視行為が黙示的な害悪の告知として脅迫に該当するか、(4) 12月4日の被告人A及びFの言動が強要未遂罪の脅迫に該当するか、(5) 12月4日の脅迫行為につき被告人Bとの共謀が認められるか、(6) 被告人らの行為に正当行為として違法性阻却が認められるか。 【判旨】 原判決を破棄し、被告人Aを懲役6月(執行猶予3年)に処し、被告人Bを無罪とした。まず、H社にはKに対する労働契約に付随する信義則上の義務として就労証明書を作成等すべき義務があり、K作成の申立書が受け付けられた後も同義務は存続していたと認定し、原判決の義務否定は事実誤認とした。次に、11月27日のL体調不良後の被告人両名の言動は、体調不良前と質的に変化したとはいえず、害悪の告知と同視できないとして原判決の認定を否定した。11月28日以降12月1日までの訪問・要求行為及び12月2日以降の監視行為についても、原判決が義務の不存在という誤った前提に立ち、各訪問の具体的状況を十分検討せずに社会的相当性の逸脱を認めた点は不合理とした。他方、12月4日の被告人A及びFの怒号を伴う言動については、就労証明書の作成等を強く要求する中でLの身体等に危害を加えかねない気勢を示したものであり、社会通念上受忍すべき限度を超えた脅迫に該当し、義務の履行を求める場合でも強要罪が成立し得ると判断した。被告人Bについては、12月4日に事務所内におらず、被告人Aらの脅迫行為の経緯を知り得たとは認められないとして共謀を否定し、無罪とした。