AI概要
【事案の概要】 被告人は、サービス付き高齢者向け住宅の介護職員として夜勤中、入居者である被害者(当時86歳、アルツハイマー型認知症)に対し、頭部を杖様のもので叩き、壁に叩きつけるなどの暴行を加え、全治約3週間の頭部外傷等(左前額部から顔面の挫傷、頭頂後部の打撲瘤、両手甲の打撲)の傷害を負わせたとして、傷害罪で起訴された事案である。弁護人は、被告人が被害者に暴行を加えた事実はないと主張した。 【争点】 被害者の傷害が被告人の暴行によって生じたものか否か。具体的には、(1)傷害の成傷原因として被害者自身の転倒等による自傷の可能性を排除できるか、(2)被告人から暴行を受けた旨の被害者証言に信用性が認められるか、が争われた。 【判旨(無罪)】 裁判所は、まず傷害の発生時期について、左額の挫傷及び頭頂後部の打撲瘤は本件期間内に生じたと認定したが、両手甲の打撲については合理的疑いが残ると判断した。成傷原因については、頭頂後部の打撲瘤はその位置から直ちに自傷では生じ得ないとまではいえず、よろけて壁にぶつける等の可能性も否定できないとした。左額の挫傷も転倒等で生じ得るものであり、被害者が頻繁に転倒していた事実に照らせば、複数の傷害が同時期に生じたことが他者の加害を推認させるとはいえないとした。被害者証言については、述べる暴行態様が激しいものであるのに傷害結果と整合しないこと、1時間以上の暴行は業務上・物音の観点から不自然であること、ナースコール引き抜きの訴えが他の職員の証言と矛盾すること、被害者に事実を誇張し被害的に訴える傾向が認められること、被告人に対する悪感情から虚偽の被害を訴えた可能性が具体的に考えられることなどを指摘し、信用性に疑問が残ると判断した。以上から、犯罪の証明がないとして無罪を言い渡した(求刑:懲役1年)。