損害賠償、求償金請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 上告人が普通乗用自動車を運転して駐車場に進入した際、路面の陥没に右前輪が入り込み、腰椎椎間板ヘルニア等の傷害を負った。上告人には事故前から腰椎椎間板に変性(素因)が存在しており、過失割合は2割、素因減額は3割とされた。上告人は人身傷害保険金666万円余の支払を受けたが、保険会社が上告人の加害者(駐車場所有管理会社の承継人である被上告人)に対する損害賠償請求権をどの範囲で代位取得するかが問題となった。 【争点】 人身傷害保険金を支払った保険会社が被害者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得する範囲について、素因減額がされる場合に、保険約款中の限定支払条項(既存の身体の障害又は疾病の影響がなかったときに相当する金額を支払う旨の条項)の存在がどのように影響するか。上告人は、保険会社が限定支払条項に基づく減額をせずに保険金を支払った以上、素因減額前の損害額を填補するものとして扱うべきと主張した。 【判旨】 上告棄却。限定支払条項は、既存の身体の障害又は疾病による影響に係る部分を保険による損害填補の対象から除外する趣旨であり、同条項に基づき支払われる人身傷害保険金は、既存の疾患による影響部分を除いた損害を填補する趣旨・目的の下で支払われるものである。したがって、素因減額がされる場合において、当該疾患が限定支払条項にいう既存の身体の障害又は疾病に当たるときは、保険会社は、支払った保険金の額と素因減額後の損害額のうちいずれか少ない額を限度として損害賠償請求権を代位取得する。このことは保険会社が実際に限定支払条項に基づく減額をしたか否かによって左右されない。 【補足意見】(林道晴裁判官) 素因減額は、加害行為と既存疾患が共に原因となった場合における損害額の発生そのものに係る局面の問題であり、発生した損害額について公平な分担のための調整を図る過失相殺の問題とは局面が異なる。したがって、素因減額がされる場合を過失相殺がされる場合と同様に解すべきであるとの上告人の主張は採用できない。
裁判要旨
被保険者が自動車の運行に起因する事故等に該当する急激かつ偶然な外来の事故により傷害を被った時に既に存在していた身体の障害又は疾病の影響により、上記傷害が重大となった場合には、保険会社は、その影響がなかったときに相当する金額を支払う旨の定めがある自動車保険契約の人身傷害条項の被保険者である被害者に対する加害行為と加害行為前から存在していた被害者の疾患とが共に原因となって損害が発生した事案について、裁判所が、損害賠償の額を定めるに当たり、民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して、上記疾患をしんしゃくし、その額を減額する場合において、上記疾患が上記定めにいう身体の障害又は疾病に当たるときは、被害者に対して人身傷害保険金を支払った保険会社は、支払った人身傷害保険金の額と上記の減額をした後の損害額のうちいずれか少ない額を限度として被害者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得する。 (補足意見がある。)
参照法条
保険法25条、民法91条、民法709条、民法722条2項