AI概要
【事案の概要】 被告人は、福山市立小学校の教諭(当時36歳、身長172cm、体重63kg)であり、生徒指導主事等を担当していた。令和6年5月10日午後1時頃、同校6年生の児童(当時11歳、身長132cm、体重31kg)が、1週間前に注意した行為と同様に体育館の倉庫からサッカーボールを持ち出してグラウンドで蹴っているのを発見し、反省を促すため声をかけた。しかし児童は笑いながら逃走したため、被告人は追いかけて腕をつかんだ。児童が腕を振って逃げようとし、被告人を足で蹴るなどしたため、被告人は児童の背後に回り、両脇下から両手を通して後頭部で組む、いわゆる羽交い締めの体勢をとった。児童が落ち着くまでの2、3分間その体勢を続けた後、手を放した。被告人は暴行罪で起訴され、検察官は罰金20万円を求刑した。 【争点】 被告人の羽交い締め行為が、学校教育法11条に基づく懲戒権の行使として正当行為(刑法35条)に当たり違法性が阻却されるか。弁護人は、正当防衛及び正当行為により無罪であると主張した。検察官は、被告人と児童の体格差に照らし、目的に比して過度な有形力の行使であると主張した。 【判旨】 無罪。裁判所は、教師の児童に対する有形力の行使が懲戒権の行使として許される範囲内かどうかは、行使の目的・態様・結果等を総合し、健全な社会通念に照らして相当と認められる範囲内か否かを具体的・個別的に判断すべきとした。そのうえで、本件行為は児童に肉体的苦痛を与える目的ではなく口頭指導のためにその場にとどめようとしたものであること、被告人は児童が抵抗をやめた時点で直ちに体勢を解いており終始抑制的に対応していたこと、拘束時間は2、3分程度と殊更に長くないこと、行為自体が直ちに傷害の結果を生じる態様ではなかったことを認定した。検察官の「体格差に照らし過度な有形力の行使」との主張を退け、また「より穏当な対処の余地があった」との指摘についても、事後的に適切な選択肢をとらなければ正当行為の範囲外とするのは相当でないとした。以上から、本件行為は懲戒権の行使として相当な範囲を逸脱しておらず体罰にも当たらないとして、刑法35条により違法性が阻却され、暴行罪は成立しないと判断した。