懲戒免職処分取消等、懲戒処分取消請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 福岡県糸島市の消防職員(消防司令補・小隊長)が、平成15年頃から平成28年11月までの約13年間にわたり、少なくとも10人の部下に対し、ロープで身体を縛って懸垂させた上で宙づりにする、熱中症で意識を失うまで訓練を繰り返させる、「ぶっ殺すぞ」「死ね」「恐怖で支配する」等の暴言を日常的に浴びせるなどのパワー・ハラスメント行為を繰り返した。消防長は懲戒免職処分としたが、職員がその取消しと国家賠償を求めて提訴した。第1審・控訴審とも処分取消しを認容した。 【争点】 消防職員に対する懲戒免職処分が、社会観念上著しく妥当を欠き、懲戒権者の裁量権の範囲を逸脱又は濫用した違法なものといえるか。 【判旨】 最高裁は原判決を破棄し、職員の請求を棄却した。本件各行為は、訓練や指導の範疇を大きく逸脱し、部下に恐怖感・屈辱感を与え人格を否定するのみならず家族を侮辱するものも含まれ、極めて不適切である。長期間・多数回にわたり繰り返された非違の程度は極めて重い。消防職員の職務上、厳しい訓練が必要な場合があるとしても、指導の範疇を大きく逸脱する行為が許容される余地はない。本件各行為は職場環境を甚だしく害し、消防組織の秩序・規律を著しく乱すものであり、多数の職員が職場復帰に反対する書面を提出した事実もその現れである。懲戒処分歴がないこと等を踏まえても、免職を選択した判断は裁量権の逸脱・濫用に当たらない。 【林道晴裁判官の補足意見】 消防組織は上下関係を基にした厳しい訓練が必要な反面、優位的関係を背景とした不適切な言動の危険を孕んでおり、対策の確実な実施が望まれる。原審は個々の行為を単体で評価したが、本件各行為が全体としてもたらす悪影響を十分に評価すべきであった。繰り返されるパワー・ハラスメントを理由とする懲戒処分の適否は、諸事情を踏まえ非違行為の影響を適切に評価する必要がある。
裁判要旨
地方公共団体の消防職員が部下に対する言動等を理由として懲戒免職処分を受けた場合において、次の⑴~⑶など判示の事情の下では、上記処分が裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用した違法なものであるとした原審の判断には、懲戒権者の裁量権に関する法令の解釈適用を誤った違法がある。 ⑴ 上記消防職員は、上記言動の当時、消防隊の小隊長等として消防職員を指導すべき立場にあった。 ⑵ 上記言動の中には、①採用後間もない部下に対し、鉄棒に掛けたロープで身体を縛って懸垂をさせた上、部下が力尽きた後もそのロープを保持して数分間宙づりにして更に懸垂するよう指示したり、熱中症の症状を呈するまで訓練を繰り返させたり、体力の限界のため倒れ込んだことに対するペナルティと称して更に過酷なトレーニングをさせたりする行為や、②部下に恐怖感や屈辱感を与えたり、その人格を否定したり、その家族をも侮辱したりする発言が含まれている。 ⑶ 上記言動は、少なくとも10人の部下に対し、十数年の長期間、多数回にわたり、執拗に繰り返されたものである。 (補足意見がある。)
参照法条
地方公務員法29条1項