生活保護基準引下げ違憲処分取消等請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 厚生労働大臣は、生活扶助基準について、平成25年から平成27年にかけて段階的に改定(本件改定)を行った。本件改定は、(1)平成25年検証の結果を踏まえた年齢・世帯人員・級地による乖離の調整(ゆがみ調整)、(2)平成20年以降のデフレ傾向を反映した調整(デフレ調整)、(3)激変緩和措置から構成され、3年間で約670億円の支出削減をもたらした。本件は、富山市に居住し生活保護を受給する原告らが、本件改定に伴う生活扶助の減額処分(本件各処分)は憲法25条、社会権規約及び生活保護法に違反し違憲・違法であると主張して、被告市に対し本件各処分の取消しを、被告国に対し国家賠償法1条1項に基づく損害賠償(各5万円)の支払を求めた事案である。 【争点】 (1) 本件改定に係る厚生労働大臣の判断に裁量権の逸脱又は濫用があるか(争点1)。具体的には、デフレ調整の違法性(専門家の検討を経ずに物価を考慮したこと、生活扶助相当CPIを用いたこと、始期を平成20年としたことの各適否等)及びゆがみ調整の違法性(第1・十分位との比較の適否、2分の1処理の適否等)が争われた。 (2) 国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求権の成否(争点2)。 【判旨】 裁判所は、生活扶助基準の改定には厚生労働大臣に専門技術的かつ政策的な裁量権があるとしつつ、基準部会等の専門家による審議検討を経ずに行われた改定については、統計等の客観的数値との合理的関連性や専門的知見との整合性につき被告らの十分な説明を要するとの判断枠組みを示した。 その上で、デフレ調整について、(1)生活扶助相当CPIの算定に用いたウエイトは国民一般の消費構造を反映したものであり、生活保護受給世帯の消費構造(食料・光熱水費の割合が高く、教養娯楽費の割合が低い)を適切に反映していないこと、(2)除外品目によりウエイト総和が減少した結果、テレビやパソコン等の教養娯楽用耐久財の価格下落の影響が過大評価され、変化率マイナス4.78%のうちマイナス3.28%がテレビ等の寄与度であったこと、(3)テレビ等の価格下落は地上デジタル放送移行による需要減少や品質調整によるものであり、生活保護受給世帯にはチューナーが無償配布されていたこと等から、消費実態と大きく乖離した値となったと認定した。また、物価変動の観測始期を平成20年としたことについても、平成19年から20年にかけての大幅な物価上昇を考慮せず物価下落の側面のみが大きく評価される仕組みであり、合理性が認められないとした。 以上から、デフレ調整に係る厚生労働大臣の判断には裁量権の逸脱又は濫用があり、デフレ調整とゆがみ調整は一体的に行われ不可分であること、かつデフレ調整が財政効果の大半(670億円中510億円)を占めることから、本件改定全体が生活保護法3条・8条2項に違反し違法であるとして、本件各処分の取消請求を認容した。一方、国家賠償請求については、精神的苦痛は処分の取消しにより慰謝される性質のものであるとして棄却した。