建造物侵入、現住建造物等放火、殺人、殺人未遂、銃砲刀剣類所持等取締法違反
判決データ
AI概要
【事案の概要】 被告人は、アニメーション制作会社(以下「E」)が設けた小説コンクールに応募して落選した後、Eが自分の小説のアイデアを盗用したとの妄想的確信を抱くに至った。被告人は、幼少期の父親からの虐待、コンビニエンスストア等での対人トラブル、2度の服役を経て、生活保護を受給しながら孤立した生活を送っていた。精神科への通院や訪問看護等も自ら断ち切り、妄想性障害による「闇の組織」や「公安警察の監視」等の妄想を深めていく中で、E等への恨みを増幅させ、令和元年7月18日午前10時30分頃、Eのスタジオに侵入し、ガソリン約10リットルを従業員らに浴びせ掛けて点火した。その結果、従業員70名が現にいたスタジオを全焼させ、36名を殺害し、34名に対しては殺害するに至らなかった(うち32名に傷害を負わせた)。また、犯行時に柳刃包丁6本を携帯していた。 【争点】 主な争点は、犯行当時の被告人の責任能力の有無及び程度であった。捜査段階のQ鑑定は妄想性パーソナリティ障害と診断し、妄想の犯行への影響は限定的とした。一方、裁判所選任のR鑑定は妄想性障害(混合型・持続性・重度)と診断し、10年以上にわたる妄想世界の中で動機が形成されたとした。裁判所は、Q鑑定には闇の組織に関する重要な前提事実が欠けていた等の問題があるとして採用せず、R鑑定を採用して妄想性障害への罹患を認定した。 【判旨(量刑)】 裁判所は、被告人の妄想性障害による妄想がE等への恨みという動機の形成に影響したことを認めつつも、放火殺人という手段選択は被告人自身の性格傾向・考え方・知識等に基づく判断であり、妄想の影響はほとんど認められないとした。犯行約8か月前から思いとどまる期間があったこと、犯行直前にも十数分間逡巡したこと、犯行場所・時間の選択や準備行動が合理的であったこと等から、善悪を区別する能力及び犯行を思いとどまる能力はいずれも著しく低下していなかったとして、心神喪失・心神耗弱のいずれも否定した。量刑判断では、36名殺害・34名殺害未遂という結果の重大性、ガソリンを人体に浴びせ点火するという極めて危険で残虐な犯行態様、強固な殺意に基づく計画性、遺族らの峻烈な被害感情、社会的影響の大きさ等を総合し、妄想性障害の影響や幼少期の虐待等の被告人に有利な事情を最大限考慮しても死刑を回避し得る事情はないとして、死刑を言い渡した。