特許権侵害差止等請求控訴事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、「シュープレス用ベルト」に関する特許権(本件特許1・特許第3698984号)及び「製紙用弾性ベルト」に関する特許権(本件特許2・特許第3946221号)を有する控訴人(ヤマウチ株式会社)が、被控訴人(イチカワ株式会社)による製紙用ベルト製品の製造・販売等が上記各特許権の侵害に当たると主張して、差止め、廃棄及び損害賠償(当審での拡張請求を含め3億3000万円)を求めた事案の控訴審である。 シュープレス用ベルトとは、製紙工程において湿紙を加圧脱水するために使用されるエンドレスベルトであり、補強基材と熱硬化性ポリウレタンを一体化して製造される。本件特許1は、ベルト外周面のポリウレタンの硬化剤としてDMTDA(ジメチルチオトルエンジアミン)を使用することでクラックの発生を防止する発明に関し、本件特許2は、排水溝の壁面の表面粗さを算術平均粗さ(Ra)で2.0μm以下とすることで良好な搾水性能を実現する発明に関するものである。原審(大阪地裁)は控訴人の請求を全部棄却し、控訴人が控訴を提起した。 【争点】 1. 被控訴人各製品が本件発明2の構成要件2B(排水溝壁面の表面粗さがRaで2.0μm以下)を充足するか。控訴人は、溝加工時のばらつきを考慮し、異常値を除外した平均値で判断すべきと主張した。 2. 本件発明1が、被控訴人が過去に出荷したベルトB(平成11年〜12年に日本製紙向けに出荷)により公然実施された発明といえるか。控訴人は、当時の当業者が通常利用可能な分析技術ではDMTDAの使用を知り得なかったと主張した。 【判旨】 知財高裁は、原審の判断を支持し、控訴を棄却した。 争点1について、構成要件2Bは「排水溝の壁面の表面粗さが、算術平均粗さ(Ra)で、2.0μm以下である」と明確に規定しており、一部が2.0μmを超えるものを含むと解すべき文言は特許請求の範囲にも明細書にもないとした。控訴人が主張する異常値除外や平均値による判断手法は、構成要件2Bを逸脱する独自の解釈であり、独占権が付与される特許請求の範囲の解釈としては採り得ないと判示した。また、使用済みベルトは使用により表面粗さが変化する可能性があり、その測定結果を未使用時と同視できないとし、キーサンプルの信頼性も肯定した。 争点2について、エタキュアー300(DMTDAを含有する硬化剤)は出願前から実用化されポリウレタン用硬化剤として文献で紹介されていたこと、被控訴人がアルベマール社の国内関連会社との取引を契機にDMTDAの使用を知ったことは他の当業者も着目し得たことを裏付けること、ベルトの外周層を切り出して分析することも当業者に可能であったことから、ベルトBは公然実施された発明に当たると認定した。