特許報酬、損害賠償等請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、全国農業協同組合連合会(全農)の元従業員である原告が、在職中に行った8件の職務発明(農産物の包装・輸送に関する特許)について、特許法35条3項に基づく相当の対価4820万円の支払と、被告従業員等から違法なハラスメントを受けたとして民法715条1項(使用者責任)に基づく損害賠償500万円の支払を求めた事案である。 原告は被告の営農・技術センター等で農産物の輸送品質向上に関する研究開発に従事し、衝撃強さ評価方法、集合包装、包装用箱、積荷監視システム、輸送用防振技術、青果の包装方法、輸送積荷用動吸振器(ACトップ)、園芸温室栽培用水タンクなど計8件の特許を取得した。被告の特許権等管理細則に基づき、出願手続をした日に特許を受ける権利が被告に承継されたが、原告は承継の対価として出願補償・登録補償・実績補償の支払を求めた。また、特許権の有償譲渡の打診書面の送付、父親の訃報の不連絡、不当な勤務査定、技術協力約束の不履行、JICA視察研修時の便宜拒否の5件をハラスメントとして主張した。 【争点】 主な争点は、①職務発明の相当の対価の額、②相当の対価請求権の消滅時効の成否、③違法なハラスメントの有無、④損害賠償請求権の消滅時効の成否であった。特に、消滅時効の起算点について、被告が出願日を起算点と主張したのに対し、原告は特許登録日等を起算点とすべきと主張した。また、唯一時効が完成していない本件発明7(ACトップ)について、被告の社内規程に基づく対価の定めが不合理か否か、同発明が「業務上、有益な発明」に該当するかが争われた。 【判旨】 裁判所は原告の請求をいずれも棄却した。 相当の対価請求については、まず消滅時効に関し、被告の特許権等管理細則は「出願手続をした日から当該権利を承継する」と定めており、対価の支払時期に関する定めもないことから、出願日が消滅時効の起算点であると判断した。本件発明1ないし6及び8は訴訟提起時に出願日から10年が経過しており、時効消滅が認められた。 時効が完成していない本件発明7(ACトップ)については、平成23年細則で権利承継の対価は「原則として無償」と定められ、平成28年内規で「業務上、有益な発明」に対する特別表彰等の制度が設けられていたところ、裁判所はこれらの定めが特許法35条4項の不合理性の要件を満たさない(不合理とはいえない)と判断した。そのうえで、ACトップは輸送試験で上下揺れに一定の効果が認められたものの横揺れには効果がなく、貨物効率の低下等のデメリットも判明し実用化に至らなかったことから、「業務上、有益な発明」には該当しないとして、対価請求を認めなかった。 ハラスメントに基づく損害賠償請求についても、特許権の有償譲渡の打診は不合理・不当とはいえず、父親の訃報に関する行為は被告退職後の元従業員の行為であり事業執行性を欠き、勤務査定も種々の事情により決まるもので違法性は認められず、技術協力の約束も秘密保持契約にとどまり、JICA視察研修の便宜拒否も違法なハラスメントとは評価できないとして、全て排斥した。