AI概要
【事案の概要】 本件は、「モールドコイルの製造方法」に関する特許権(特許第4718583号)を有する原告が、被告(株式会社埼玉村田製作所)の海外子会社が同特許発明の技術的範囲に属する方法でモールドコイルを製造・譲渡・輸入したとして、共同不法行為に基づく損害賠償(1500万円)及び不当利得返還(5000万円)を請求した事案である。原告は被告の元従業員であり、在職中に本件発明を考案して自ら特許出願した後、被告との間で特許を受ける権利を譲渡する契約(本件譲渡契約)を締結し、被告に通常実施権を付与するとともに、被告に不利益となる権利行使を行わない旨の不行使規定も合意していた。被告は村田製作所の完全子会社であり、平成27年から28年にかけて全製品の販売権を村田製作所に譲渡していた。本件では、被告方法が本件発明の構成要件を充足するか、海外子会社の行為について共同不法行為が成立するか、特許の無効理由の有無、権利不行使規定の効力、通常実施権の存否、特許権の消尽など多数の争点が提起された。 【争点】 主要な争点は以下の7点である。①被告方法が本件発明の技術的範囲に属するか(構成要件B:磁性体粉末の容積比65Vol%以上の充足性、構成要件C:成形金型の「隙間」の該当性、構成要件F:排出された樹脂の磁性体粉末容積比がキャビティ内より低いか)、②被告の海外子会社との共同不法行為の成否、③損害額・利得額、④本件特許の無効理由(新規事項追加、進歩性欠如、サポート要件違反)、⑤権利不行使規定の効力、⑥被告の通常実施権の有無、⑦特許権の消尽。裁判所は構成要件Fの充足性を中心に判断した。 【判旨】 裁判所は、被告方法が構成要件Fを充足しないとして、原告の請求を棄却した。構成要件Fは、排出された磁性体モールド樹脂の磁性体粉末容積比がキャビティ内のそれよりも「相対的に低い」ことを要件とする。原告は、磁性体粉末の粒子径が樹脂の漏れ出す隙間より大きければ樹脂が優先的に排出されるという原理を主張し、被告方法で加圧しても樹脂の流出が止まるのは磁性体粉末が隙間を埋めたためであると主張した。しかし裁判所は、①樹脂の流出が止まった原因が磁性体粉末による隙間の閉塞であることを裏付ける証拠がなく、被告が主張する加熱による樹脂の硬化が原因である可能性を排除できないこと、②被告方法における隙間の幅・形状・構造が不明であること、③磁性体粉末には様々な粒子径のものが含まれ、隙間より格段に小さい粒子が多数存在すること、④隙間より小さい粒子が多数含まれる場合に樹脂のみが優先的に排出されるとは認められないことを指摘した。さらに、被告からは電子顕微鏡画像の分析により、バリ部分とコア部分の磁性体粉末容積比がほぼ同等であるとの証拠が提出されていた。以上から、被告方法は本件発明の技術的範囲に属せず、その余の争点を判断するまでもなく原告の請求には理由がないとした。