発信者情報開示請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、アダルトビデオの制作・販売を行う原告(有限会社プレステージ)が、ファイル共有ソフト「BitTorrent(ビットトレント)」を用いて原告の動画が無断で共有されたとして、アクセスプロバイダである被告(KDDI株式会社)に対し、プロバイダ責任制限法5条1項に基づき、著作権(公衆送信権)侵害に係る発信者情報の開示を求めた事案である。 原告は、調査会社(株式会社HDR)が開発した専用ソフトウェアを用いて、ビットトレントのネットワーク上で原告の動画のファイルをアップロード可能な状態に置いているピア(端末)を検出し、そのIPアドレス等を特定したと主張した。具体的には、調査会社がビットトレントのプロトコルに従って各ピアとの間で「HANDSHAKE」「ACK」「BITFIELD」「INTERESTED」の各通信を経た後、相手方ピアから返される「UNCHOKE」(ファイルのアップロードが可能であることを通知する通信)を検出・記録し、これを発信者特定の根拠とした。被告は、同一ソフトウェアを用いた別件訴訟で請求棄却の判決が複数存在すること、意見照会に対して発信行為を否定する具体的かつ説得的な回答があったことなどから、調査結果の信用性を争った。 【争点】 1. 本件各通信が、発信者から調査会社に対する本件動画に関する「UNCHOKE」の通信であるといえるか。 2. プロバイダ責任制限法5条1項1号の「権利が侵害されたことが明らか」といえるか。特に、「UNCHOKE」の通信をもって送信可能化による公衆送信権侵害が認められるか。 【判旨】 裁判所は、事案に鑑み争点2から判断し、原告の請求をいずれも棄却した。 裁判所は、著作権法2条1項9号の5が定める「送信可能化」の意義について、同号イ又はロに列挙された行為に該当する必要があるとした上で、ビットトレントの仕組みにおける「UNCHOKE」通信の位置づけを検討した。裁判所は、調査会社の説明を前提とすると、「UNCHOKE」通信がされる時点より前の段階で、既に動画ファイルの少なくとも一部がピアに記録され、インターネット及びビットトレントネットワークに接続されてアップロード可能な状態になっていたと認められるとした。しかし、「UNCHOKE」通信がされた時点において、更に著作権法2条1項9号の5のイ又はロに該当する行為が行われたことを認めるに足りないと判断した。 また、プロバイダ責任制限法が「侵害関連通信」の範囲を総務省令で定めているところ、「UNCHOKE」に該当する通信がそこに規定されているとは認められず、「UNCHOKE」通信の時点で動画のピースが実際に送信(自動公衆送信)されたともいえないとした。 以上から、「UNCHOKE」通信に係る情報の流通によって原告の公衆送信権が侵害されたことが明らかであるとはいえず、その余の争点を判断するまでもなく、原告の請求には理由がないと結論づけた。本判決は、ビットトレントにおける「UNCHOKE」通信の著作権法上の位置づけについて正面から判断を示した点で、同種事案の実務に影響を与えるものである。