AI概要
【事案の概要】 三重県内で生活保護を受給していた原告らが、厚生労働大臣による平成25年から平成27年にかけての生活扶助基準の引下げ(本件改定)に基づき、各処分行政庁がした保護変更決定処分(生活扶助の減額)の取消しを求めた行政訴訟である。本件改定は、(1)社会保障審議会生活保護基準部会の平成25年検証で指摘された基準額の年齢・世帯人員・地域間の乖離を解消するための「ゆがみ調整」と、(2)消費者物価指数(CPI)の下落を反映させる「デフレ調整」(平成20年から平成23年にかけて生活扶助相当CPIが4.78%下落したとして同率の減額を実施)の二本柱で構成されていた。自由民主党は平成24年の衆議院議員総選挙で生活保護費の1割カットを公約に掲げており、政権復帰後の厚生労働大臣が就任直後から引下げを断行する旨明言していた。 【争点】 主な争点は、(1)判断枠組み(厚生労働大臣の裁量権の範囲と司法審査の方法)、(2)デフレ調整の合理性、(3)ゆがみ調整の合理性、(4)理由付記の瑕疵の有無であった。 【判旨】 裁判所は、生活扶助基準の改定には高度の専門技術的考察と政策的判断が必要であり厚生労働大臣に裁量権が認められるとしつつも、「最低限度の生活」の具体化に係る判断の過程及び手続における過誤・欠落の有無等の観点から審査すべきであるとした。 その上で、デフレ調整について以下の理由から裁量権の逸脱・濫用があると判断した。第一に、昭和58年意見具申以来、物価は「参考資料にとどめるべき」とされてきたにもかかわらず、物価下落率を引下げの直接の根拠としたことは従前の水準均衡方式と全く異なる見解であり、基準部会等の専門機関に諮ることなく行われた。第二に、生活扶助相当CPIの下落率4.78%のうち約6割がテレビ・パソコン等の技術革新による価格下落に起因するところ、被保護世帯がこれらを買い替える余裕があったとは考えられず、厚生労働省自身の社会保障生計調査の結果すら度外視された。第三に、起算点を平成20年度としたことは、同年度の一時的な物価高騰後の下落を過大に反映させるものであり、恣意的な選択といわざるを得ない。第四に、本件改定の背景には選挙公約や「生活保護バッシング」に代表される否定的国民感情という、本来考慮すべきでない事項の考慮があった。 以上により、本件改定は生活保護法3条・8条2項に違反する違法なものであり、これに基づく本件各決定も違法であるとして、出訴期間を徒過した原告2名を除く原告らの請求を認容し、各保護変更決定処分を取り消した。