AI概要
【事案の概要】 本件は、YouTubeで将棋のAI解説動画を投稿するYouTuber(原告)が、囲碁将棋チャンネルを運営する株式会社(被告)に対し、損害賠償を求めた事案である。原告は、YouTubeチャンネル「ブヒブヒAI解析」を運営し、将棋の王将戦の棋譜を用いたAI解説動画や展開予想動画を投稿していた。被告は、王将戦について主催者から独占的な放送・配信権の許諾を受けていたところ、原告の動画5本に対し、YouTubeに著作権侵害申告を行い、これらの動画を削除させた。被告は、原告動画3に係る申告を除き、毎日新聞社やスポーツニッポン新聞社など第三者の名称を冒用して申告を行っていた。原告は各動画について異議申立てを行い、いずれも約1か月後に復元されたが、YouTubeの仕組み上、著作権侵害警告を3回受けるとアカウントが停止されるため、不安定な立場に置かれた。原告は、被告の行為が不正競争防止法2条1項21号の虚偽告知行為に該当するとともに、原告の人格的利益を侵害する不法行為であると主張し、183万1500円の損害賠償を請求した。被告は、不正競争防止法違反及び不法行為の侵害論(人格的利益該当性を除く)は争わないと答弁した。 【争点】 1. 原告がYouTubeに動画を投稿する利益が、民法709条の「法律上保護された利益」に該当するか(争点1) 2. 損害額(争点2) 【判旨】 裁判所は、争点1について、原告の主張する人格的利益は法律上保護された利益に該当しないと判断した。まず、人格的利益の侵害を主張するのみでは特定の被侵害利益に基づく請求の特定として不十分であり、裁判所の重ねての釈明にもかかわらず原告が具体的な特定をしなかった点を指摘した。原告が援用した最高裁平成17年判決(船橋市西図書館事件)については、公立図書館の職員が基本的義務に違反して独断的評価や個人的好みにより蔵書を廃棄した場合に限定される射程の狭い判例であり、私企業であるYouTubeにおける投稿動画の伝達利益が問題となる本件には妥当しないとした。また、大阪高裁令和4年判決についても、投稿者の営業活動妨害という側面を踏まえたものであり、精神的価値に限定して法的利益性が主張されている本件には必ずしも適切でないとした。 争点2について、裁判所は、不正競争防止法に基づく経済的損害として、各動画の1再生あたりの収益単価と削除期間中の逸失再生回数を詳細に算定し、逸失利益合計1万6511円を認めた。再生回数減少以外の逸失利益(ブランド価値毀損等)は立証不十分として否定した。精神的損害(慰謝料125万円の請求)は、人格的利益の侵害が認められないことを前提として棄却した。弁護士費用は認容額の約1割である1600円とした。結論として、請求額183万1500円に対し、認容額は1万8111円(請求の約1%)にとどまった。