AI概要
【事案の概要】 被告人(医師)は、長年にわたり精神障害により入退院を繰り返していた父親(被害者)を疎ましく思い、その死を望むようになっていた母親とともに、共犯者である別の医師の提案を受けて、自然死を装って被害者を殺害する計画を立てた。遅くとも犯行当日の平成23年3月5日までに、被告人・母親・共犯者の3名の間で具体的な殺害計画が共有され、母親が被害者の入院先に退院の意向を伝え、被告人が車椅子を手配し、殺害場所として東京都内のマンスリーマンションを賃借するなどの準備を行った。犯行当日、被告人と母親は被害者を退院させ、車椅子に乗せて新幹線で大宮駅まで移動し、同駅付近で待機していた共犯者と合流して被害者を自動車でマンションの一室に搬送した。被害者は同日午後0時頃から午後4時頃までの間に何らかの手段で殺害された。殺害後、被告人は共犯者とは別の医師名義で死因を急性循環不全とする死亡診断書を偽造し、母親が死亡届を作成して区役所に提出し、同月10日に遺体を火葬した。その後、被告人と母親は被害者がいなくなったことを喜ぶメールをやり取りしていた。本件は約12年後に発覚した。 【争点】 被告人は、控訴審において、新幹線での移動途中に母親から計画中止を訴えられて自身も中止を決意し、大宮駅で共犯者に中止を申し出てその了承を得たが、マンション到着後に共犯者が独断で被害者を殺害したと主張し、共謀の成立を争った。控訴審は、(1)綿密な計画の実行直前に共犯者が中止を容易に了承するとは考え難いこと、(2)仮に了承した直後に翻意して被告人に無断で殺害に及ぶことは不自然であること、(3)5分から10分程度の短時間で他殺の痕跡を残さずに殺害することは極めて疑問であること、(4)殺害後の手続が計画どおり行われ想定外の事態が生じた形跡がないこと等から、被告人の公判供述は極めて不自然で信用できないとして、3名の共謀による殺害を認定した原判決に事実誤認はないと判断した。 【判旨(量刑)】 控訴棄却(原審:懲役13年)。被告人は共犯者とともに医師としての知識・経験・立場を基に検討と準備を重ね、他殺を疑われることなく被害者を殺害する極めて巧妙な計画を練り上げ、母親も加えて役割を分担して実行した。被告人自身も事前準備、退院手続、犯行場所への搬送、死亡診断書の偽造等、計画完遂に不可欠な役割を主体的・主導的に担った。動機・経緯には同情の余地があるものの、殺害計画を立てた頃には被害者の介護を直接担っておらず、典型的な介護殺人のように肉体的・精神的に追い詰められた末の犯行とはいえない。殺人の中では重い部類に位置付けられるが、有期懲役刑の上限付近の特別に重い部類には属さないとした原判決の評価・判断に不合理な点はないとして、懲役13年の量刑を維持した。