道路交通法違反被告事件に係る略式命令に対する非常上告事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 被告人は、令和5年5月13日午前11時50分頃、島根県益田市内の道路において、普通乗用自動車(軽四)を84km毎時の速度で運転して進行した。益田簡易裁判所は、令和5年6月9日、被告人が指定最高速度50km毎時を34km毎時超過したとの事実を認定し、道路交通法22条1項、4条1項、118条1項1号等を適用して罰金6万円に処する略式命令を発付し、同命令は同年6月27日に確定した。しかし、一件記録によれば、本件違反場所は最高速度について何らの指定もされておらず、道路交通法22条1項及び同法施行令11条に規定する法定最高速度60km毎時が適用される道路であった。そのため、被告人の実際の速度超過は24km毎時にすぎず、同法125条1項により反則行為に該当するものであった。反則行為については、同法130条により、同法127条の通告をし、同法128条の納付期間が経過した後でなければ公訴を提起できないにもかかわらず、益田区検察庁の検察官事務取扱検察事務官がこの反則行為に関する処理手続を経由しないまま公訴を提起していた。検察官がこの法令違反を是正するため、非常上告を申し立てた。 【争点】 本件の争点は、指定最高速度と法定最高速度の取り違えに起因する略式命令の適法性である。具体的には、違反場所に最高速度の指定がないにもかかわらず指定最高速度50km毎時を前提に速度超過34km毎時と認定した原略式命令が法令に違反するか、また、正しくは速度超過24km毎時の反則行為であるのに反則手続(交通反則通告制度)を経ずに公訴提起したことが刑訴法338条4号の公訴棄却事由に当たるかが問題となった。交通反則通告制度は、軽微な交通違反について反則金の納付により刑事手続を回避する仕組みであり、一定の速度超過(一般道路で30km毎時未満)は反則行為として同制度の対象となる。本件では、正しい速度超過が24km毎時であったため反則行為に該当し、通告・納付期間経過前の公訴提起は許されないこととなる。 【判旨(量刑)】 最高裁第一小法廷(裁判長裁判官・岡正晶)は、裁判官全員一致の意見で、本件非常上告には理由があると判断した。本件違反場所は最高速度の指定がなく法定最高速度60km毎時が適用される道路であったから、被告人の速度超過は24km毎時であり、道路交通法125条1項の反則行為に該当する。反則行為については同法130条により反則手続を経なければ公訴提起ができないところ、検察官事務取扱検察事務官がこの手続を経由せず公訴を提起したのであるから、益田簡易裁判所は刑訴法463条1項・338条4号により公訴棄却の判決をすべきであった。にもかかわらず有罪を認定して略式命令を発付した原略式命令は法令に違反し、かつ被告人のために不利益であることが明らかである。よって、刑訴法458条1号により原略式命令を破棄し、同法338条4号により本件公訴を棄却した。本件は、最高速度の指定の有無という基本的事実の確認を怠ったことにより、反則行為を非反則行為として誤って処理した捜査・起訴段階の過誤を、非常上告により是正した事例である。