AI概要
【事案の概要】 本件は、「重症心不全の治療方法およびその薬剤」に関する特許(特許第4771937号、請求項1〜14)の特許権者である原告が、被告トーアエイヨーらの請求に基づき特許庁がした特許無効審決の取消しを求めた事案である。本件特許は、活性成分としてトルバプタン(選択的バソプレシンV2受容体拮抗薬)を含む薬剤を、急性心不全又は慢性心不全の急性増悪期にあるNYHAクラスIVの重症患者に対し、最適の治療と組み合わせて入院下で経口投与する重症心不全の治療薬に関するものである。特許庁は、本件各発明はいずれも主引用例である甲2(トルバプタンの心不全患者への長期治療効果に関する論文)に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明できたものであるとして進歩性を否定し、特許を無効とする審決をした。原告は、審決には甲2発明の認定の誤り、相違点の看過、容易想到性の判断の誤り及び顕著な効果の評価の誤りがあると主張して、審決の取消しを求めた。 【争点】 主な争点は、本件発明1と甲2発明との間の進歩性に関する認定判断の誤りの有無であり、具体的には、(1)甲2発明の対象患者が「慢性心不全の慢性期の軽症〜中等症患者」に限られるか、(2)甲2発明におけるトルバプタンの投与が「外来」で開始されるものか、(3)本件発明1の「最適の治療」と甲2発明の「標準治療」が一致するか、(4)用量のみを相違点として認定した手法に誤りがあるか、(5)各相違点に係る容易想到性の判断に誤りがあるか、(6)本件発明1に予測できなかった顕著な効果(予後改善・死亡率低下)があるか、が争われた。 【判旨】 知的財産高等裁判所は、原告の請求を棄却した。裁判所は、まず甲2発明の認定について、甲2の対象患者が慢性心不全の軽症〜中等症患者に限られるとする原告の主張を退け、NYHAクラスI〜IIIの患者群には急性心不全の患者や重症患者が含まれていた可能性を否定できないとした。また、甲2における投与が外来で行われたとも断定できないとし、本件審決の認定に誤りはないとした。相違点の容易想到性については、利尿薬は急性・慢性を問わず心不全の重症度を問わず広く用いられていたこと、トルバプタンの水利尿効果が甲2で確認されていたことから、甲2発明のトルバプタンをNYHAクラスIVの重症患者に適用することには十分な動機付けがあり、当業者が容易に想到し得たと判断した。用量についても、甲2の最小有効量と同一の1日当たり0.371mg/kgとすることは適宜なし得た事項とした。さらに、原告が主張する予後改善効果(死亡率低下)についても、本件試験はNYHAクラスIIIとIVの患者が混在しており、クラスIVの患者のみへの効果は不明であること、死亡者数が少なく統計的検証に限界があることなどから、予測できなかった顕著な効果とは認められないとして、審決に誤りはないと結論づけた。