AI概要
【事案の概要】 控訴人(原告)は、「アルツハイマー病を治療又は予防する為の抗ウイルス剤及びその使用」と題する発明(本件発明)の共同発明者の一人であり、令和元年8月30日、本件発明に係る特許を受ける権利(本件権利)を被控訴人(被告)であるクリニジェン株式会社に譲渡する契約(本件譲渡契約)を締結した。被告は同契約に基づき特許協力条約(PCT)に基づく国際出願を行ったが、所定の期間内に日本における国内移行手続を執らず、また、原告に対して自らの費用負担で権利化を行う機会も与えなかった。その結果、国際出願の効果は消滅し、本件発明は知的財産としての経済的価値を喪失した。原告は、被告の上記行為が本件譲渡契約上の債務不履行に当たるとして、損害金500万円の内金200万円の支払を求めた。原審は、本件訴えが前件訴訟の蒸し返しであり訴訟法上の信義則に反するとして訴えを却下したため、原告が控訴した。なお、前件訴訟では、原告が被告代表者Aによるパワーハラスメント(本件国内移行手続を執ることの阻止等)を理由に会社法350条に基づく損害賠償を請求し、棄却判決が確定していた。 【争点】 本件訴えが前件訴訟の蒸し返しとして訴訟法上の信義則に反する不適法なものか否か。具体的には、前件訴訟(不法行為構成・会社法350条)と本件訴訟(債務不履行構成)とで訴訟物は形式的に異なるものの、実質的に同一の紛争の蒸し返しに当たるかが争われた。 【判旨】 知的財産高等裁判所は、控訴を棄却し、本件訴えを不適法とした原判決を維持した。裁判所は、本件訴えは形式的には前件訴訟と訴訟物を異にするものの、実質的にみれば、本件発明に係る国内移行手続が執られず権利化されなかったという同一の社会的事実について、前件訴訟では被告代表者Aの不法行為と構成し、本件訴えでは被告の債務不履行と構成したものにすぎないと判断した。そして、本件訴えにおける債務不履行の成否は、結局のところ、Aが国内移行手続を執らない旨決定したことが業務上必要かつ相当な判断であったかによって決まる性質のものであり、前件訴訟においてこの点に関する原告の主張が排斥されたことにより、債務不履行が成立しないことについても実質的な判断がされているとした。さらに、原告は前件訴訟において本件訴えと同様の請求をすることに何ら支障がなかったにもかかわらず、改めて訴えを提起することは、全部勝訴の確定判決を得た被告の法的地位を不当に長く不安定な状態に置くものであるとし、信義則に反し許されないと結論付けた。