不当利得返還等請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、「自動二輪車のブレーキ制御装置及び挙動解析装置」と題する特許(特許第4960929号)を有する原告(自動車メーカーで研究開発業務に従事する個人)が、被告ヤマハ発動機株式会社に対し、被告が製造・販売する自動二輪車に搭載された電子制御装置(被告製品1〜3)が原告の特許発明の技術的範囲に属するとして、特許権侵害による損害賠償請求権又は不当利得返還請求権に基づき、3億1200万円の一部である1億円及び遅延損害金の支払を求めた事案である。本件特許は、自動二輪車の傾斜走行時に横Gセンサーと角速度センサーを関連付けることで、従来は正確に検出できなかった傾斜角の検出を可能にし、車両の走行状態での正確な横G(Ghosei)を算出して車両挙動の安定制御を実現することを目的とするものである。被告自動二輪車にはIMU(イナーシャルメジャメントユニット)やスライドコントロールシステム(SCS)、トラクションコントロールシステム(TCS)、ブレーキコントロールシステム(BC)等の機能が搭載されていた。 【争点】 主な争点は、(1)被告製品1・2が本件発明1の技術的範囲に属するか(「ブレーキ制御装置」該当性、「目標制動力演算」への制動指令の有無、補正後の横G(Ghosei)を用いた車両挙動判断の有無、均等侵害の成否等)、(2)被告製品3が本件発明2の技術的範囲に属するか(「車両解析に用いられる装置」該当性、ロールによる影響を取り除く演算の有無等)、(3)損害の額、(4)本件特許に無効事由があるか(サポート要件違反、明確性要件違反、補正要件違反、乙9公報に基づく新規性・進歩性欠如)であった。特に、本件明細書に記載された演算式(式A:Ghosei=Gken−Ψ・Rhsen)が物理学上の次元の異なる物理量の差引きとなっており意味をなさない点が大きな争点となった。 【判旨】 裁判所は、請求を棄却した。まず、本件発明の意義について、横Gセンサーの計測値から傾斜角度を算出できなかった従来の課題を、走行時の横Gセンサーと角速度センサーを関連付けることで解決し、車両の傾斜走行状態での正確な横Gを検出することを目的とするものと認定した。その上で、サポート要件違反について検討し、構成要件1Fの「横G(Ghosei)」の算出方法として本件明細書に記載されているのは式A(Ghosei=Gken−Ψ・Rhsen)のみであるが、同式は加速度の次元(長さ/時間の2乗)と速度の次元(長さ/時間)の物理量の差引きとなっており物理学上意味を持たない式であると認定した。原告は式Aが式A'(Ghosei=Gken−Ψドット・Rhsen)の誤記であると主張したが、裁判所は、次元の違いによる問題を解消する訂正方法は式A'に限られず、他にも考え得る解消方法があること、式Aの訂正と整合するように明細書の他の記載部分を訂正していくと従前問題なく理解できていた記載の趣旨が理解できなくなったり整合しなくなること等から、式Aが式A'の誤記であると理解することはできないと判断した。結論として、本件発明1及び本件発明2のいずれについてもサポート要件を欠くものであり、特許無効審判により無効にされるべきものであるから、原告はその権利を行使することができないとして、その余の争点について判断するまでもなく請求を棄却した。