業務上過失致死
判決データ
AI概要
【事案の概要】 電気通信機器用電気磁気材料等の製造販売を営む会社の仙台事業所において、令和2年7月29日午前8時50分頃、マグネット製造で用いられるL-5焼結炉の焼結室内で、脱落した部品(ピン)の有無を確認・回収する作業中に、従業員2名(当時50歳と26歳)が酸素欠乏空気を吸入して昏倒し、酸素欠乏による窒息で死亡した事故について、被告人が業務上過失致死罪に問われた事案である。被告人は、同社の材料製品技術部マグネットグループマネージャーであったが、かつては生産推進部製造グループ(マグネット)のマネージャーを務めており、後任のマネージャーに就任した後も、焼結工程に関する専門的知識を有する唯一のマネージャーとして、焼結炉の修繕等の非定常作業について従業員に指示を行っていた。検察官は、被告人が焼結室に立ち入る場合の酸素濃度測定や換気措置を指示すべき注意義務を怠った過失があると主張した。 【争点】 主な争点は、(1)被告人が注意義務を負うべき立場にあったか、(2)被告人が本件事故の結果発生を予見できたか(予見可能性)の2点である。(1)について、弁護人は、被告人が所属する材料製品技術部と、事故が起きた生産推進部製造グループとの間に指揮命令関係はなく、注意義務を負う立場にはなかったと主張した。(2)について、検察官は、被告人がピンの脱落報告を受けた時点で従業員が焼結室内に立ち入って作業を行うことを予見できたと主張した。 【判旨(無罪)】 裁判所は、まず争点(1)について、被告人は形式的な指揮命令権限は有しなかったものの、焼結工程に関する専門的知識を有する唯一のマネージャーとして実質的に指示を行っていた実態から、注意義務を負うべき立場にあったと認定した。ただし、その注意義務の程度は、製造グループのマネージャーが本来負うべき程度とは異なり、技術的な決定を行う場面に限定されるとした。次に争点(2)について、被告人がeからピン脱落の報告を受けた時点では、焼結室内に立ち入って作業を行うことが確定していたわけではなく、被告人としては翌日出勤して焼結室への立入りの要否を判断する予定であったこと、実際には被告人はパニック障害の発作により事故当日は出勤できなかったこと、従業員の間では被告人の指示がなければ焼結室内での作業は行わないという運用がなされていたことなどを踏まえ、被告人が退勤するまでの間に従業員が焼結室に立ち入ることを具体的に予見できたと認めるには合理的な疑いが残ると判断した。以上から、被告人に過失があったとは認められないとして、刑訴法336条により無罪を言い渡した(求刑:罰金60万円)。