AI概要
【事案の概要】 本件は、「鑑定証明システム」と題する特許(特許第6894033号、請求項1ないし7)に関する審決取消訴訟である。原告(Bacoor dApps株式会社)が被告の有する本件特許について特許庁に無効審判(無効2022-800078号)を請求したところ、特許庁は令和5年8月2日に「本件審判の請求は、成り立たない。」とする審決をした。原告はこの審決の取消しを求めて知的財産高等裁判所に提訴した。本件特許に係る発明は、バッグ、カバン、衣類、時計、美術工芸品、自動車等の鑑定証明が必要とされる製品について、製品に貼着された小型記録媒体に記録された秘密鍵と、ギャランティカードに記録された秘密鍵の二つを用い、ブロックチェーン技術を活用して製品情報や取引情報を記録・読み込みすることで、真の所有者のみが信頼性の高い鑑定証明を簡単に行えるシステムに関するものである。 【争点】 主な争点は、本件特許の明細書の発明の詳細な説明が特許法36条4項1号の実施可能要件を満たすか否かであった。原告は4つの取消事由を主張した。取消事由1は、構成要件E及びFを具現すべき機能・装置等について明細書に記載されておらず不明瞭であり、当業者が本件発明に係る鑑定証明システムを作り使用できる程度に明確かつ十分に記載されていないとする実施可能要件の判断の誤りである。取消事由2は、審決が本件明細書とは別の書面である特許請求の範囲が「理解できる」との判断に依拠する誤った論理構成を採用しているとの主張である。取消事由3は、審決に理由不備・審理不尽等の手続上の瑕疵があるとの主張、取消事由4は、本件発明1の構成要件Eにおける「秘密鍵を使用し」と「アプリケーション[B]を用いて」の相互関係等について審決の認定・解釈に誤りがあるとの主張であった。 【判旨】 知的財産高等裁判所は、原告の請求を棄却した。裁判所はまず、本件明細書の記載から本件発明の技術的意義を整理し、公開鍵暗号方式によるデジタル署名技術が出願当時の技術常識であったことを認定した。その上で、明細書の段落【0021】、【0022】及び【0036】等の記載に基づき、当業者は出願当時の技術常識を踏まえれば、要鑑定製品に付与された秘密鍵とギャランティカードに付与された秘密鍵がデジタル署名技術による本人認証の手段として使用されることを自然に理解でき、過度の試行錯誤を要することなく本件発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていると判断した。取消事由2については、審決は明細書の記載に基づき実質的な検討を行っており論理構成に誤りはないとし、取消事由3の理由不備等の主張も退けた。取消事由4については、構成要件Eの解釈として被告の主張する特許請求の範囲の記載解釈が正しく、法70条1項・2項に基づく自然かつ合理的な解釈であるとして、審決の認定に誤りはないと結論づけた。本判決は、ブロックチェーン技術を用いた鑑定証明システムという比較的新しい技術分野において、公開鍵暗号方式の技術常識を前提とした実施可能要件の充足判断を示した点で実務上参考になる。