AI概要
【事案の概要】 原告Aは、被告八雲町が運営する八雲総合病院の産婦人科において、子宮腺筋症による過多月経等の治療のため、平成19年3月から平成25年11月まで約7年間にわたり経口避妊薬(アンジュ28錠)の処方を受けていた。原告Aは平成26年1月に脳静脈洞血栓症を発症し、右半身麻痺(右上下肢機能全廃)及び失語症を患い、身体障害等級1級の認定を受けた。原告Aは、処方医である被告Cには添付文書上禁忌とされる高血圧患者への処方、血圧測定等の検査を怠った過失、血栓症リスクの説明義務違反があるとして、被告Cに対し不法行為に基づき、被告八雲町に対し使用者責任又は債務不履行に基づき、約2億7589万円の損害賠償を請求した。原告Aの夫である原告Bも固有の慰謝料550万円を請求した。また、原告Aは予備的に、血圧測定を怠ったことでPMDA(医薬品医療機器総合機構)の副作用救済給付を受けられなかったとして約7060万円の損害賠償も請求した。 【争点】 (1) 経口避妊薬の処方と脳静脈洞血栓症発症との事実的因果関係の有無 (2) 添付文書等に違反して処方した注意義務違反の有無 (3) 検査・経過観察義務違反(血圧測定等を怠った過失)の有無 (4) 被告C個人の不法行為責任の有無(最後の処方を行ったのが別の医師である場合) (5) 説明義務違反の有無 (6) 検査・経過観察義務違反と血栓症発症との法的因果関係の有無 (7) 損害額 【判旨】 裁判所は、以下のとおり判断し、被告八雲町に対する債務不履行に基づく損害賠償請求を約1億9444万円の限度で認容した。 第一に、経口避妊薬には血液凝固能を亢進させる効果があり継続服用で蓄積すること、製造販売会社やPMDAも薬剤と血栓症の関連性を否定できないとしていること、他に血栓症の具体的原因が見当たらないこと等から、本件血栓症は経口避妊薬が原因であると認定した。ただし、事実的因果関係が認められるのは発症前最後の処方(平成25年11月20日、I医師によるもの)に限られるとした。 第二に、最後の処方時の原告AのBMIは約26.2で添付文書上の「禁忌」には該当せず、「慎重投与」の対象にとどまるため、添付文書違反による処方の過失は認められないとした。 第三に、添付文書が投与中6か月毎の血圧測定等の検診を要求しているにもかかわらず、最後の処方の6か月前に血圧測定等が行われていなかったことから、検査・経過観察義務違反(漫然と処方した注意義務違反)を認めた。血圧測定を行っていれば処方が回避された蓋然性があるとして、同義務違反と血栓症発症との法的因果関係も肯定した。 第四に、最後の処方を行ったのはI医師であり被告Cではないこと、チーム医療として連携していたとは認められないことから、被告Cの不法行為責任及び被告八雲町の使用者責任は否定し、被告八雲町の債務不履行責任のみを認めた。 損害額は、治療費約81万円、将来介護費約7857万円、休業損害約964万円、後遺障害逸失利益約6278万円、後遺障害慰謝料2800万円等の合計から障害年金の損益相殺を行い、弁護士費用1767万円を加えた1億9444万7629円と認定した。原告Bの請求は棄却された。