AI概要
【事案の概要】 被告人Aは暴力団の最高幹部、被告人Bはその運転手、被告人Cは被告人Aと同居する兄弟である。被告人A及び被告人Bは、被告人Cが同乗していないにもかかわらず、被告人C名義のETCカードを挿入した車載器を搭載した車両で高速道路のETCレーンを通過し、ETC利用割引の適用を不正に受けた。具体的には、令和4年11月8日及び同年12月2日の2回にわたり、阪神高速道路において、正規の通行料金との差額合計1400円相当の財産上不法の利益を得たとして、電子計算機使用詐欺罪で起訴された。被告人A及び被告人Bは暴力団員であるため反社条項により自己名義のクレジットカード及びETCカードを持てず、被告人Cから本件ETCカードを借り受けて常習的に使用していた。ETCカードの利用料金は被告人Aが被告人Cに金員を渡し、被告人Cの口座から引き落とす形で支払われていた。 【争点】 弁護人らは、(1)ETCシステムにおいてカード名義人の同乗情報は「虚偽の情報」に該当しない、(2)「財産上不法な利益」を得ていない、(3)故意及び不法領得の意思がない、として無罪を主張した。争点(1)について弁護人らは、ETCシステムの事務処理目的は料金徴収に必要な通行情報の記録にあり、カード名義人の同乗という情報までは要求されていないと主張した。また、高速道路会社はカード名義人以外の利用について広報活動や実態調査を行っておらず黙認している、家族間でのETCカード貸借は4割近くが経験しているとのアンケート結果もあり犯罪とするのは非常識である、さらに被告人Cの了解があるため可罰的違法性がないなどと主張した。加えて、被告人Aが暴力団員であることを理由とした差別的な公訴提起であり公訴権の濫用であるとも主張した。 【判旨(量刑)】 裁判所は、ETCシステムにおいてクレジットカードに付帯するETCカードを使用する場合、所定の審査を経てカードの貸与を受けた名義人本人との間でのみ電子決済をすることが重要な前提とされていると判示した。高速道路営業規則及びETC利用規定はいずれもカード名義人本人の乗車・利用を明確に要求しており、カード名義人が同乗しない状態での使用はETCシステムで予定されている事務処理の目的に照らし真実に反する「虚偽の情報」に該当するとした。争点(2)については、虚偽の情報を与えたことにより割引制度が適用され正規料金との差額の支払を免れたのであるから「財産上不法の利益」を得たと認定した。争点(3)については、被告人らはカード名義人不在の状態でETCカードを利用した事実を認識・認容しており故意に欠けるところはなく、ETC利用による割引は公知の事実であるから不法領得の意思も認められるとした。可罰的違法性については、本件ETCカードの使用は暴力団排除条項を潜脱するものであり常習性も認められるとして処罰に値する違法性があると判断した。公訴権濫用の主張も排斥した。量刑として、被告人3名をそれぞれ懲役10月とし、被告人B及び被告人Cについては3年間の執行猶予を付した。被告人Aについては累犯前科があることから実刑とした。