殺人、殺人未遂
判決データ
AI概要
【事案の概要】 被告人は、自宅敷地内において、折りたたみナイフ(刃体の長さ約10.2cm)で、①被害者A(当時32歳)の背部を多数回突き刺し、胸部を切り付けるなどして殺害し(殺人)、②犯行を止めようとしたAの妻B(当時31歳)の頸部等を数回突き刺して傷害を負わせたが殺害には至らなかった(殺人未遂)という事案の控訴審である。事件の発端は、被害者夫婦の娘C(11歳)が被告人方にBB弾を投げ入れたことにあり、被告人から叱られたCの話を聞いたAが被告人方を訪れたところ、被告人はナイフを隠し持って応対し、口論の末に犯行に及んだ。原審は被告人を懲役25年に処した。弁護人は、Bに対する殺意の認定の誤り、急性ストレス反応による責任能力の欠如・減退、及び量刑不当を主張して控訴した。 【争点】 ①被告人のBに対する殺意の有無、②犯行当時の被告人の責任能力の有無及び程度(急性ストレス反応の影響)、③懲役25年という量刑の当否。 【判旨(量刑)】 控訴棄却。争点①について、被告人はBの頸部を含む上半身を本件ナイフで何度も突き刺し、合計10か所の刺傷(深さ約4〜5cm)を負わせており、頸部は重要な神経や血管が集中する部位であることから、人を死亡させる危険性の高い行為であったと認定した。被告人は急性ストレス反応を発症していたものの、犯行を止めようとしたDを攻撃せず、体当たりしてきたBのみを攻撃しており、「全員ぶっ殺してやる」と複数の攻撃対象を認識する発言もしていたことから、BをAと取り違えたとは考え難く、殺意の認定は不合理ではないとした。なお、仮に取り違えがあったとしても同一構成要件内の客体の錯誤であり故意は阻却されないと付言した。争点②について、被告人はDが割って入った際に右腕で突き飛ばしつつAを刺し続けるなど、攻撃対象を選択しており重篤な意識障害はなかったと認められること、急性ストレス反応の症状自体は直ちに他害行為につながるものではなく自分の意思に反した行動をさせるものでもないとする精神鑑定医の証言の信用性に疑問はないことから、完全責任能力を認めた原判決の判断は不合理ではないとした。争点③について、犯行態様の残忍さ、被害結果の重大さ、被害者側に落ち度がないこと、急性ストレス反応の影響が限定的であること等を総合すると、殺人1件・殺人未遂1件の量刑傾向に照らし重い事案に位置付けられ、当審での謝罪や50万円の弁済申入れ等を考慮しても量刑の大枠に影響を及ぼすものではなく、懲役25年は不当に重いとはいえないとして、原判決を維持した。