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【事案の概要】 被告人は、鹿児島市内の父親(当時77歳)の自宅で両親と同居していたが、仕事をせず引きこもっていたことから父親との折り合いが悪かった。令和5年7月7日午後10時55分頃、酒に酔った父親から「ばかが」「出ていけ」などと罵声を浴びせられたことに憤激し、自ら研いで加工した鋼質製の食卓用ナイフ(刃体の長さ約11.7cm)で父親の腹部を複数回突き刺した。父親は前上膵十二指腸動脈損傷、腹部刺創等の加療約1か月間を要する傷害を負ったが、救急搬送され救命措置を受けたことで死亡には至らなかった。輸血量は約4600mlに及び、体内の血液総量にほぼ等しく、救命措置がなければ死亡する危険があった。 【争点】 被告人の殺意の有無が争点となった。弁護人は、本件ナイフの切れ味は野菜を切るのにも力を要する程度であり、刃物が被害者の身体に刺さった感覚も全くなかったことから、被告人は自身の行為が死の危険性の高い行為であるとは認識していなかったと主張した。これに対し裁判所は、本件における刃物の用法は刺突であり切る動作ではなかったから刃の切れ味は行為の危険性を左右しないこと、先端の鋭利な形状からして刺突すれば人体に刺さる危険は一見して認識できること、創傷の数・部位・程度に照らせば刃物が身体に当たった感覚が全くなかったとの弁解は不合理であることを指摘し、殺意を認定した。 【判旨(量刑)】 裁判所は、人体の枢要部である腹部に鋭利な刃物を複数回突き刺した危険な犯行であり、救命措置がなければ死亡の可能性も十分あったとして結果の重大性を指摘した。一方で、強い殺意があったわけではなく、酒に酔った被害者の心ない罵声が犯行を誘発した点で動機・経緯には同情の余地があること、前科がないこと、被告人が反省し親元を出て更生する意思を示していること、被害者である父親が被告人を許し妻とともに社会内更生を強く願っていることを有利に考慮した。同種事案(親に対する殺人未遂・単独犯・宥恕あり)の量刑傾向も踏まえ、懲役3年・執行猶予5年・保護観察付きとした(求刑懲役5年)。