AI概要
【事案の概要】 被告人は、3人の子(長女5歳、次女3歳、三女0歳)の育児をする中で、次女の食物アレルギーへの対応や無添加食品へのこだわり、献立作りの負担等から追い詰められていった。令和4年2月7日頃からは、長女に都道府県の知識を教えられなかったことや夫のパソコン操作に困惑する姿を見たこと等、一見些細な出来事にも自己否定を深め、希死念慮を抱くようになった。犯行前日には実父に「消えてしまいたい」「母親になっちゃいけなかった」等のメッセージを送り、3時間近く電話で悩みを打ち明けたが、翌朝には再び絶望感に陥った。犯行当日の令和4年2月10日、被告人は子供たちに最後の喜びを与えようと、普段避けていたレトルトカレーやマクドナルドのパンケーキセットを買い与えた後、夫に宛てた手紙を書き、自宅2階において、三女、次女、長女の順にUSBコード様の索条物で頸部を絞め付けて殺害した。その後、子供たちのおむつや衣服を替え、川の字に寝かせて毛布を掛けた上で自殺を試みたが死にきれず、夫と実父に謝罪のメッセージを送信した。 【争点】 主な争点は、犯行当時の被告人の責任能力の有無・程度及び殺意の有無であった。弁護側は、被告人が双極症のうつ病相に解離症が重畳した状態にあり、体と意識が分離して行動をコントロールできなかったとして、心神喪失ないし心神耗弱を主張した。これに対し、裁判所は、検察側鑑定医(A医師)の見解を採用し、被告人は精神疾患(うつ病・解離性障害等)にはり患しておらず、神経症性・状況反応型の葛藤状況(抑うつ状態)にあったと認定した。弁護側鑑定医(B医師)の見解については、信用性の認められない被告人供述を基礎としている点で採用できないとした。犯行に至る経緯において思考の大きな飛躍がなく、日常生活にも重大な支障を来していなかったこと、犯行中も合理的な行動をとり記憶も保持されていたこと等から、完全責任能力を認めた。殺意についても、自らの判断で無理心中を決意し実行したものと認定した。 【判旨(量刑)】 裁判所は、被告人を懲役23年に処した(求刑懲役25年)。3名の幼い命が失われた結果の重大性、強い殺意が認められること、幼い子供たちが最愛の母親の手で突如将来を絶たれた苦痛の大きさを指摘した。一方で、動機が母親としての自信喪失と抑うつ状態に起因するものであり、身勝手ではあるが相当に思い詰めていたことは疑いなく、必要以上に自分を責めて視野が狭くなり適切に対処することが困難であったことを量刑上斟酌すべきとした。被告人が本件を後悔し反省していることも考慮した上で、求刑から2年減じた懲役23年が相当と判断した。