認知請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、嫡出でない子である上告人が、被上告人に対し認知を求めた事案である。被上告人は、自己の精子を凍結保存した後、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(特例法)に基づき法的性別を男性から女性に変更した。その後、上告人の母が被上告人の同意の下で上記凍結精子を用いた生殖補助医療により懐胎し、上告人を出産した。被上告人は胎児認知の届出をしたが、法的性別が女性であることを理由に不受理とされた。原審(第2審)は、嫡出でない子が認知請求権を取得するのは、生物学的な女性に自己の精子で子を懐胎させた者の法的性別が出生時に男性である場合に限られるとして、上告人の請求を棄却した。 【争点】 法的性別を男性から女性に変更した者に対し、その者の凍結精子を用いた生殖補助医療により生まれた子が認知を求めることができるか。 【判旨】 最高裁は、原判決を破棄し、上告人の認知請求を認容した(裁判官全員一致)。その理由として、まず民法の実親子に関する法制は血縁上の親子関係を基礎に置くものであり、血縁上の父子関係の存在は法的性別が男性か女性かによって異なるものではないとした。次に、実親子関係の存否は子の福祉に深く関わるものであり、認知の訴えは子の福祉及び利益のため強制的に法律上の父子関係を形成するものであるところ、法的性別が女性であることを理由に認知を妨げると、血縁上の父から監護・養育・扶養を受ける法的地位や相続権が否定され、子の福祉に反することは明らかであるとした。また、特例法3条1項3号(現に未成年の子がいないこと)の規定は未成年の子の福祉への配慮に基づくものであり、むしろ成年の子については法律上の父が法的性別男性の者に限られないことを明らかにするものと解した。以上から、嫡出でない子は、生物学的な女性に自己の精子で当該子を懐胎させた者に対し、その者の法的性別にかかわらず、認知を求めることができるとした。 【補足意見】 三浦守裁判官は、特例法3条1項4号(生殖腺要件、大法廷決定で違憲無効)との関係について、同号は性別変更前に凍結保存した精子の使用を含め性別変更後に子が生まれる可能性を否定しておらず、認知を妨げる根拠とはならないとした。また、生殖補助医療に関する法整備の必要性が認識されながら20年超が経過し現実が先行している中、現行法の適切な解釈により事件を解決することは裁判所の責務であると述べた。尾島明裁判官は、民法の実親子法制が血縁関係を基礎に置くという判例に照らし法廷意見は基本原則に反しないこと、認知を認めないことは子の福祉に反すること、3号規定の趣旨が子の福祉を犠牲にしてまで確保されるべきものとは考えられないことを詳述した。