特許取消決定取消請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、三井化学株式会社及び国立研究開発法人産業技術総合研究所(原告ら)が共同で保有する特許(特許第6781864号、発明の名称「ペリクル膜、ペリクル枠体、ペリクル、その製造方法、露光原版、露光装置、半導体装置の製造方法」)について、特許庁がした特許取消決定の取消しを求めた事案である。 本件特許は、半導体製造のリソグラフィ工程で使用されるペリクル膜(フォトマスク用防塵カバー)に関するもので、特にEUV(極端紫外光)リソグラフィ用のカーボンナノチューブ(CNT)シートからなる極薄の自立膜に関する発明である。本件発明は、CNTのバンドルが面内配向し、電子線回折像における回折強度の比RBが0.40以上であるという定量的パラメータにより高度な配向性を特定した点に特徴がある。 特許庁は、3件の引用文献に基づく新規性・進歩性の欠如及び拡大先願違反を理由として、請求項1、3〜18に係る特許を取り消す決定をした。原告らは、引用文献には自立CNTペリクル膜の発明が記載されていないこと、RB0.4以上事項が実質的な相違点であることなどを主張して本件決定の取消しを求めた。 【争点】 主な争点は、(1)引用文献1に自立CNTペリクル膜の発明が記載されているか、(2)RB0.40以上という定量的パラメータの有無が引用発明との実質的な相違点にあたるか、(3)引用文献2及び3に基づく進歩性の判断の当否、(4)拡大先願に係る発明との同一性の判断の当否である。 【判旨】 知的財産高等裁判所は、原告らの請求を認容し、本件決定のうち請求項1、3〜18に係る特許を取り消した部分を取り消した。 裁判所は、引用文献1に自立CNTペリクル膜の構成自体は記載されていると認定した一方で、RB0.40以上事項については実質的な相違点であると判断した。その理由として、引用文献1にはRBの数値を特定する記載が一切なく、CNT膜の面内配向性をRBにより特定すること自体も出願時の技術常識とはいえないこと、特許請求の範囲上、バンドルの面内配向という定性的構成(構成1C)とRB0.40以上という定量的構成(構成1D)は独立の構成であり、面内配向の特性を有するからといってRB0.40以上を当然に満たすとはいえないことを挙げた。被告(特許庁長官)が主張した「薄膜自立無秩序SWCNTシートであれば通常RB0.4以上事項を満たす」との点についても、具体的な特定や立証がなく、原告ら提出の実験結果によればRBが負の値となる自立膜も存在することから採用しなかった。 引用文献2については、引用発明の認定自体に誤りがあり(放熱体とCNTバルク構造体の関係の取り違え)、垂直配向構造を網目構造に改変することには阻害要因があるとした。引用文献3及び拡大先願についても、RB0.40以上事項に係る相違点の判断に同様の誤りがあるとして、取消事由1〜5のいずれにも理由があると結論づけた。