懲戒処分等取消請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 普通地方公共団体である大津市の職員(総務部課長)であった被上告人が、飲酒運転等を理由に懲戒免職処分を受けたことに伴い、退職手当管理機関である大津市長から、一般の退職手当(約1620万円)の全部を支給しないこととする処分(全部支給制限処分)を受けたため、懲戒免職処分及び全部支給制限処分の各取消しを求めた事案である。被上告人は、平成30年8月7日、午後5時頃から午後10時30分頃まで同僚らと飲食してビール・酎ハイ・発泡酒を相当量飲んだ後、約5km離れた自宅に帰るために自動車を運転し、立体駐車場内で駐車中の車に接触する事故を起こしたにもかかわらず、何らの措置も講じずに運転を続け、さらに道路の縁石に接触する事故を起こしながらそのまま帰宅した。翌朝、被上告人は管理人に事故を伝えた後に警察に通報したが、臨場した警察官に対し当初は事故の発生日時について虚偽の説明をしていた。原審は、懲戒免職処分は適法としつつ、全部支給制限処分については裁量権の逸脱・濫用があるとして違法と判断した。 【争点】 退職手当の全部を支給しないこととする処分(全部支給制限処分)が、退職手当管理機関の裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものとして違法であるか否か。具体的には、27年余りの懲戒処分歴のない勤続実績や被害弁償等の事情を考慮してもなお、退職手当の全額不支給が社会観念上著しく妥当を欠くものといえるかが問題となった。 【判旨】 最高裁は、原判決中の上告人敗訴部分を破棄し、被上告人の全部支給制限処分取消請求を棄却した。まず、退職手当支給制限処分の判断は退職手当管理機関の裁量に委ねられており、社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱・濫用した場合に違法となるとの判断枠組みを示した。その上で、被上告人が長時間にわたる相当量の飲酒直後に自動車を運転し、2回の事故を起こしていることから運転は重大な危険を伴うものであったこと、第1事故後に何らの措置も講じず運転を続けた態様は悪質であること、翌朝の警察官への虚偽説明は不誠実であること、管理職である課長の職にあったことから公務への信頼を大きく損なうことが明らかであることを指摘し、被害弁償や27年余りの懲戒処分歴のない勤続等をしんしゃくしても、全部支給制限処分に係る市長の判断が裁量権の範囲を逸脱・濫用したものとはいえないと判断した。 【補足意見】 裁判官岡正晶の反対意見がある。岡裁判官は、退職手当には勤続報償的な性格のみならず給与の後払的な性格や生活保障的な性格もあることを重視し、全部不支給の判断には勤続の功を完全に抹消するに足りる事情があるか慎重な検討が必要であるとした。本件非違行為は飲酒運転として到底許されないものの、職務中の行為ではなく、結果も軽微な物損事故にとどまり、公務への具体的かつ現実的な支障も重大とはいえないことから、27年余りの功績を完全に抹消することは酷に過ぎるとして、全部支給制限処分は違法であるとする原審の判断は是認できるとした。