AI概要
【事案の概要】 住友林業株式会社に新卒入社し、熊本支店で住宅販売の営業職に従事していた亡A(当時24歳)が、入社約9か月後に自死した事案である。亡Aの父親である原告が、亡Aの自死は業務上の精神障害に起因するものであるとして、労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料の支給を請求したが、熊本労働基準監督署長から不支給処分を受けた。原告は審査請求・再審査請求をいずれも棄却された後、本件各処分の取消しを求めて提訴した。亡Aは、平成27年4月に入社後、指導担当のB主任から営業活動日報への否定的なコメントや呼び捨て・叱責等を受け、研修期間終了後は長時間の時間外労働に従事する一方、在籍中に1件も住宅の受注を成約できていなかった。同年11月17日頃には母親に「俺死ぬけん」と電話し、同年12月末に自死に至った。 【争点】 主な争点は、(1)亡Aの精神障害の疾患名・発病時期、(2)時間外労働時間数の算定(休憩時間の控除方法)、(3)指導担当からのパワーハラスメント等の心理的負荷の評価、(4)業務以外の心理的負荷(交際女性との別離・既往症)及び個体側要因、(5)業務起因性の総合評価である。原告は発病時期を平成27年12月28日頃・中等症うつ病エピソードと主張し、被告は同年11月17日頃・他のうつ病エピソードと主張した。時間外労働時間数についても、休憩時間の控除を1日30分とする原告と2時間とする被告で大きく争われた。 【判旨】 裁判所は、精神科医師らの意見に基づき、亡Aは平成27年11月17日頃に他のうつ病エピソードを発病したと認定した上で、同年12月28日頃以降に言動に明らかな異変が生じ、わずか数日後に自死に至った経緯から、精神障害が自然経過を超えて著しく悪化したものと判断した。心理的負荷の評価期間は、著しい悪化時点からおおむね6か月前までとした。休憩時間については、新入社員であった亡Aが自らの裁量で十分な休憩を取れる状況になかったとして、被告主張の1日2時間ではなく1日1時間と認定し、時間外労働時間数を悪化前1か月91時間55分、2か月104時間38分、4か月93時間54分と算定した。これは認定基準の「連続した3か月間に月おおむね100時間以上」に準ずるものとして「強」と評価する余地があるとした。指導担当B主任の言動については、パワーハラスメントとまでは認めなかったものの、新人を萎縮させ自尊心を損なわせる不相当かつ適切性を欠く指導であったとして心理的負荷を「中」と評価した。業務以外の心理的負荷(失恋・既往症)の影響は高くないと判断し、長時間労働と指導担当の不相当な言動を相互に関連する出来事として総合評価した結果、心理的負荷は「強」に該当するとして業務起因性を認め、本件各不支給処分を取り消した。