AI概要
【事案の概要】 原告は、屋形船・遊覧船の運航や鵜飼い等の事業を営む会社である。被告Aは原告の元代表取締役、被告B・C・Dは元取締役であり、いずれも船頭業務を兼務していた。原告は、昭和56年の株主総会で代表取締役の報酬上限を年額600万円と決議していたが、被告Aは代表取締役就任後、この上限を超える報酬(月額66万6000円~75万円)を自らに支払い、合計892万2000円の超過支払を行った。また、平成31年1月の株主総会で各取締役に年額600万円の定額報酬を支払う議案が否決されたにもかかわらず、被告Aはその直後の取締役会決議により、被告B・C・Dに対し従業員給与名目で月額50万円(役員手当5万円+固定給45万円)の定額支給を開始した。本来、従業員(船頭)の給与は売上げに応じた歩合制の日給月給であったところ、定額支給により超過支払が生じた。本訴では原告が被告らに対し超過支払分の返還等を、反訴では被告C・Dが原告に対し未払給与及び退職慰労金の支払を求めた。 【争点】 ①昭和56年決議以降に代表取締役報酬の増額を認める株主総会決議が存在したか、②決算承認により超過報酬の支払が追認されたか、③株主総会で否決された定額報酬と同額の固定給を取締役会決議で支給することの適法性、④被告Aの故意・過失の有無、⑤前代表取締役の報酬額に関する約束を根拠とする信義則違反の成否、⑥反訴における未払給与・退職慰労金の額。 【判旨】 裁判所は、本訴請求をすべて認容し、反訴請求を一部認容した。まず争点①について、報酬増額の株主総会決議の存在を裏付ける議事録はなく、被告A側の証拠も決議の時期・内容が曖昧で信用できないとして、増額決議の存在を否定した。争点②について、決算承認の際に代表取締役報酬額が議論された形跡はなく、決算承認をもって報酬額決定の株主総会決議と同視することはできないとした。争点③について、定額の取締役報酬を否決した株主総会決議の直後に、名目を従業員給与に変えて同額の定額支給を行うことは、株主総会決議の趣旨に反し、当該取締役会決議は無効であると判断した。固定給の水準が従前の給与と大差なくとも、売上減少時に給与額が減少しないという利点がある以上、株主総会の趣旨に反するとした。争点④について、被告Aは総会議事録の調査により決議の不存在を確認できたにもかかわらず漫然と超過支払を行っており、少なくとも過失があるとした。争点⑤の信義則違反の主張も、代表取締役就任後に自ら調査・提案が可能であったとして排斥した。損害額は、被告A自身の超過報酬892万2000円、被告B分149万6810円、被告C分171万6170円、被告D分155万8580円と認定した。反訴については、被告Cに37万9290円、被告Dに31万9820円の未払給与・退職慰労金を認容したが、残業手当等は証拠がないとして認めず、退職慰労金も内規の任期基準に基づき一部減額した。