損害賠償請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 宗教法人である被告世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の信者であった亡A(昭和4年生まれの女性)が、被告家庭連合に対して行った献金につき、その相続人である原告が、被告らに対し、不法行為に基づく損害賠償等を求めた事案である。亡Aは、三女の紹介により平成16年以降、被告家庭連合の施設に通い始め、病気や離婚等の不幸は怨恨を持つ霊が原因であり、献金をして先祖を解怨する必要があるとの教理を学んだ。亡Aは平成17年から平成21年までの間に合計1億58万円を献金し、さらに自己所有の土地を売却して480万円を追加献金した。亡Aが原告に献金の事実を話した後、被告家庭連合の信者らは、亡Aに対し、不法行為に基づく損害賠償請求等の訴えを一切提起しないことを約する「念書」を公証人の認証付きで作成させた(本件不起訴合意)。原審は、本件不起訴合意が公序良俗に反するとはいえないとして被告家庭連合に対する訴えを却下し、勧誘行為の違法性も否定して被告Y1に対する請求を棄却した。 【争点】 (1) 本件不起訴合意(献金に関する損害賠償請求の訴えを提起しないとする合意)が公序良俗に反し無効であるか。 (2) 被告家庭連合の信者らによる献金勧誘行為が不法行為法上違法と評価されるか。 【判旨】 最高裁は、原判決を破棄し、東京高裁に差し戻した。第一に、不起訴合意の有効性について、裁判を受ける権利(憲法32条)を制約するものであるから慎重に判断すべきとした上で、当事者の属性・関係、合意の経緯・趣旨・目的、対象となる権利の性質、不利益の程度等を総合考慮して公序良俗違反を判断すべきとの枠組みを示した。本件では、亡Aが合意締結時86歳の高齢単身者で約半年後に認知症と診断されたこと、約10年間にわたり被告家庭連合の心理的影響下にあったこと、念書の文案作成から認証手続まで終始信者らが主導したこと、1億円超の献金について何らの見返りもなく訴え提起を封じる内容であることを指摘し、本件不起訴合意は公序良俗に反し無効であると判断した。第二に、献金勧誘行為の違法性について、宗教団体等は献金勧誘にあたり、寄附者の自由な意思を抑圧しないこと及び寄附者やその親族の生活維持を困難にしないことについて十分に配慮すべきとの一般的規範を定立した(不当寄附勧誘防止法3条1号・2号参照)。その上で、違法性判断においては、寄附者の属性、入信の経緯、献金の経緯・目的・額・原資、資産や生活の状況等を多角的に総合考慮すべきとし、原審が害悪告知の有無等の一部事情のみを個別に検討して違法性を否定した判断は、審理不尽の違法があるとした。本判決は、宗教団体による献金勧誘の違法性判断について最高裁として初めて体系的な判断枠組みを示した重要判例である。