AI概要
【事案の概要】 被告人は、交際相手のAを帯同して、知人である被害者(当時40歳)らとの飲み会に参加していた。飲み会の最中、酒に酔った被害者は、Aに対し、抱きついて持ち上げる、手や腕をつかんで引き寄せるなどの身体的接触を繰り返していた。Aは不快に思いながらも場の雰囲気を壊したくないとの理由から明示的に拒絶せず、被告人は二人を遠ざけるなどの対応を取っていた。令和5年12月3日午前3時29分頃、大分県別府市内の路上において、被害者がAの背後から抱きついた。Aは振りほどこうとしたが振りほどけず、強い拒絶の意思を示した。これを見た被告人は、被害者を路上に引き倒し、倒れた被害者の腹部を右足で1回蹴り、さらに仰向けに倒れた被害者の腹部を右足で1回踏みつける暴行を加えた。被害者は外傷性膵臓損傷等の傷害を負い、同日午前6時55分、搬送先の病院で失血により死亡した。 【争点】 本件の争点は過剰防衛の成否である。弁護人は、被害者のAに対する抱きつき行為はAの性的自由や身体の安全に対する急迫不正の侵害に当たり、被告人はAを守るために暴行に及んだが防衛の程度を超えていたと主張した。これに対し検察官は、本件当時の事情・状況を総合すると、Aに対する危険が差し迫り被告人が反撃行為に出ることが正当とされるような緊急状況、すなわち急迫不正の侵害は認められないと主張した。 【判旨(量刑)】 裁判所は、被害者の抱きつき行為について、女性であるAがさして親しくない男性から意に反して振りほどけない強さで抱きつかれたものであり、Aの身体を現に制約し嫌悪感を与えるものとして急迫不正の侵害に当たると判断した。先行する身体的接触の繰り返しから被告人が抱きつき行為を予想し得たとしても、従前の対応で回避可能な程度であった以上、飲み仲間と行動を共にしていたことは社会的に不相当とはいえず、急迫性は否定されないとした。被告人の暴行はわずか5秒間に行われた一連一体の行為であり、怒りの感情が併存していたものの防衛の意思も継続していたと認定し、過剰防衛の成立を認めた。量刑については、暴行は防衛行為ではあるが、危険性の低い抱きつき行為に比して過剰性が甚だしく、強度酩酊で無防備な被害者の腹部を踏みつける行為は生命に対する危険性が非常に高いと指摘した。暴力を振るってもいいという粗暴な発想の影響もあり、責任非難の減少には限度があるとしつつ、被告人が罪の重さを認識し謝罪していること、見舞金50万円を支払ったことを考慮し、求刑懲役8年に対して懲役6年を言い渡した。