AI概要
【事案の概要】 本件は、科研製薬株式会社(原告)が、リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド及びサノフィ・バイオテクノロジー(被告ら)が保有する「IL-4Rアンタゴニストを投与することによるアトピー性皮膚炎を処置するための方法」に関する特許(特許第6353838号)について、特許無効審判を請求したところ、特許庁が請求不成立の審決をしたため、その取消しを求めた審決取消訴訟である。 本件特許は、中等度から重度のアトピー性皮膚炎(AD)患者であって、局所コルチコステロイドまたは局所カルシニューリン阻害剤による処置に十分に応答しない患者を対象に、治療上有効量の抗ヒトインターロイキン-4受容体(IL-4R)抗体またはその抗原結合断片を含む医薬組成物に関するものである。被告らの薬剤REGN668(デュピルマブ)は、IL-4Rに結合してIL-4及びIL-13の作用を遮断する抗体であり、アトピー性皮膚炎の新たな治療薬として開発されたものである。原告は、被告らがFDAに提出した第II相臨床試験のプロトコル(甲1)等に基づき、進歩性欠如、サポート要件違反及び実施可能要件違反の3つの取消事由を主張した。 【争点】 主な争点は、①本件訂正発明の進歩性の有無(引用発明である臨床試験プロトコルとの相違点の容易想到性)、②サポート要件違反の有無(明細書に開示されたmAb1以外の抗体への権利範囲の拡張の当否)、③実施可能要件違反の有無(mAb1以外の抗体の製造・使用に過度の試行錯誤を要するか)である。特に争点①では、アトピー性皮膚炎の病態におけるTh1/Th2バランスに関する技術常識の認定が重要な前提問題となった。原告は、アトピー性皮膚炎は病期に関わらずTh2/IL-4が優勢な疾患であるから、抗IL-4R抗体の治療効果は当業者が予測できたと主張した。 【判旨】 知的財産高等裁判所は、原告の請求を棄却した。争点①について、裁判所は、アトピー性皮膚炎の急性病変ではTh2細胞が優位になるが、慢性病変ではTh1細胞優位となり、炎症部位や病期によってTh1/Th2バランスが変化するという技術常識の認定に誤りはないと判断した。そして、アトピー性皮膚炎の免疫経路は複雑であり、IL-4の作用を遮断することで慢性アトピー性皮膚炎の治療効果を奏するかは、実際に治験で確認しなければ予測できなかったとし、第II相臨床試験の成功率がアレルギー疾患で約33%にすぎないことも考慮して、進歩性を肯定した。争点②については、mAb1の薬理試験結果から、治療効果がIL-4/IL-13の遮断作用によるものと理解できるため、同様のアンタゴニスト作用を有する他の抗IL-4R抗体にも課題解決が及ぶと認め、サポート要件違反を否定した。争点③についても、公知の方法及びスクリーニングにより抗IL-4Rアンタゴニスト抗体を過度の試行錯誤なく製造できるとして、実施可能要件違反を否定した。