発信者情報開示請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、SNS「X」(旧ツイッター)上で、氏名不詳者が運営するアカウントにより、原告の名誉感情を侵害する投稿や、原告が著作権を有する写真を無断で複製・公衆送信する投稿がされたとして、原告が、経由プロバイダである被告(株式会社ジェイコムウエスト)に対し、プロバイダ責任制限法5条2項に基づき、発信者情報(氏名、住所、電話番号、メールアドレス)の開示を求めた事案である。 原告は、本件アカウントによる5件の投稿について、著作権(複製権・公衆送信権)侵害及び名誉感情侵害を主張した。投稿内容は、原告やその家族の容姿を侮辱するもの、原告を「精神病患者」と称して差別的表現を用いるもの、原告が撮影した写真を無断で使用するものなどであった。原告は、ツイッター社に対する仮処分決定に基づきログインIPアドレス等の開示を受け、当該IPアドレスを管理する被告に対して本訴を提起した。被告は、投稿がインターネット上で実際に流通したか疑わしいこと、著作物の創作性や原告の著作権帰属に疑義があること、ログイン通信と投稿との間に相当の関連性がないこと等を主張して争った。 【争点】 1. 本件各投稿がインターネット上で「流通」したか否か 2. 投稿2ないし4について著作権侵害が成立するか 3. 投稿1、3及び5について名誉感情侵害が成立するか 4. ツイッターから開示されたログイン通信が「侵害関連通信」に該当するか 5. 発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか 【判旨】 裁判所は、5件の投稿のうち投稿3についてのみ発信者情報の開示を認め、その余の請求を棄却した。 まず、争点1について、スクリーンショットの表示内容に不自然な点はなく、ウェイバックマシーンに保存された投稿についても、同サービスがデジタル情報の保存を目的とする非営利法人により運営されていることから改ざんの可能性は低いとして、全投稿のインターネット上での流通を認めた。 争点2について、著作物1(原告とバンドメンバーの写真)は第三者が撮影したものであり、原告自身が著作権を有するとは認められないとして、投稿2及び4の著作権侵害を否定した。他方、著作物2(原告の夫が顔出し看板に顔をはめた写真)は、原告自身が構図や撮影アングルを工夫して撮影したものであり、創作性が認められるとして、これを無断で複製・公衆送信した投稿3について著作権侵害の明白性を肯定した。 争点3について、投稿1及び5は、その投稿内容からどの人物を対象とするか客観的に明らかでなく、投稿に至る経緯も不明であるとして、原告に対する同定可能性を否定し、名誉感情侵害を認めなかった。 争点4について、投稿3に最も時間的に近接するログイン通信が、本件接続日時のものであると認定した。投稿日時と接続日時の時間的隔たりが1か月に及ばない程度であること、ツイッター社の通信記録の保存期間との関係でこれ以上遡った通信情報が存在しないことを考慮し、侵害関連通信に該当すると判断した。この点について裁判所は、プロバイダ責任制限法の「相当の関連性」の判断において通信記録の保存状況を考慮することは妨げられないと説示した。