殺人、銃砲刀剣類所持等取締法違反
判決データ
AI概要
【事案の概要】 被告人は、妄想型統合失調症に罹患し、元同僚Aやその所属する「組織」から電磁波攻撃や盗聴等をされているとの強固な被害妄想を抱くようになった。令和3年10月13日、被告人は車上生活を送り、仕事もなく所持金も僅かとなる中、Aの実家を訪れたところ偶然Aを発見し、これまでの恨みを晴らすのは今しかないと考え、Aの殺害を決意した。被告人はまず応対したAの父C(当時80歳)を包丁で刺したがうまく刺さらなかったため、一旦自車に戻ってナイフ(刃体約12.7cm)を持ち出し、再びA方に赴いた。その際、自身や子供らの人生への影響を考えて殺人をためらう場面もあったが、最終的にC、Aの母D(当時80歳)、A(当時51歳)の3名をナイフで多数回突き刺すなどして殺害した。第一審は、被告人が犯行当時心神耗弱の状態にあったと認定し、責任能力の点を除けば本来極刑をもって臨む事案であるとしつつ、心神耗弱による減軽を行い無期懲役を言い渡した。 【争点】 控訴審における争点は、①訴訟手続の法令違反(証拠請求の却下が違法か)、②事実誤認(被告人が妄想型統合失調症に罹患しているとの認定の当否、心神耗弱ではなく心神喪失と認めるべきではないか)、③量刑不当(無期懲役は重すぎるか)の3点であった。弁護側は、被告人が主張する電磁波攻撃等は事実であり、精神科医の診断は誤診であると主張するとともに、仮に統合失調症であるとしても心神喪失と認めるべきであり、また無期懲役は重すぎると主張した。 【判旨(量刑)】 高松高等裁判所は、控訴をすべて棄却し、無期懲役とした第一審判決を維持した。訴訟手続の法令違反については、証拠請求の却下はいずれも裁量の範囲内であり違法はないとした。事実誤認については、精神鑑定医が被告人と合計約21時間の面接を行い、各種検査や関係資料を参照して妄想型統合失調症と診断したことの信用性を認め、原審の判断に誤りはないとした。心神喪失の主張に対しては、被告人が犯行前に殺害をためらっていた事実が認められること、殺害の邪魔になった者をその場の勢いで殺害することは正常心理からも説明可能であること等から、自らの行為の意味を理解し選択する能力を完全に失ってはいなかったとして退けた。量刑不当の主張についても、何の落ち度もない3名の命が奪われた極めて重大な結果であり、被害妄想を前提としてもD殺害の理由はなく生命軽視の度合いが甚だしいこと等から、心神耗弱による減軽を経て無期懲役とした原判決の量刑判断は相当であるとした。