AI概要
【事案の概要】 本件は、生命保険会社である被告の営業職員である原告が、被告が原告の賃金から携帯端末使用料、機関控除金(販促品・チラシ・花代等)、会社斡旋物品代(カレンダー・飴・チョコレート等)及び募集資料コピー用紙トナー代などの業務経費を控除したことが労働基準法24条1項の賃金全額払の原則に反し違法であるとして、未払賃金、不法行為に基づく損害賠償及び不当利得返還を求めるとともに、業務のために使用した私物携帯電話の料金の償還等を求めた事案である。 【争点】 主な争点は、(1)労使協定(賃金控除協定)の有効性、(2)賃金から経費を控除する合意の存否及びその有効性、(3)募集資料コピー用紙トナー代の控除の適法性、(4)私物携帯電話料金の費用償還請求権の存否である。 【判旨】 裁判所は、まず賃金控除協定について、労働者がその自由な意思に基づいて同意したものに適用する限りにおいて事理明白なものとして有効と判断した。次に、雇用契約締結時に営業活動費を原告負担とする包括的合意(本件合意)が成立したとは認められないとしつつも、労働者に業務遂行費用の一部を負担させる個別合意自体は労基法上直ちに違法とはならないとした。その上で、携帯端末使用料・機関控除金に係る物品代・会社斡旋物品代については、原告が約20年にわたり控除を認識しつつ注文を続けていたことから、平成30年12月分までは自由な意思に基づく有効な個別合意が成立していたと認めた。しかし、原告が平成31年1月からの控除に明示的に異議を述べた以降は、同意を認めることは困難であるとして、同月分以降の控除額合計19万3542円を未払賃金と認定した。募集資料コピー用紙トナー代については、印刷量にかかわらず全営業職員に一律月額2000円が課される負担金であり、個別合意も認められず賃金全額払の原則に反するとして、未払賃金4万円及び不当利得11万円の返還を認めた。他方、私物携帯電話料金については、業務専用の携帯電話の契約が必要不可欠であったとまでは認められず、業務外の通話先も含まれていたことから、費用償還請求・立替払契約・不当利得・事務管理のいずれの構成も認められないとして棄却した。