AI概要
【事案の概要】 被告人(医師)は、長年にわたり精神障害(双極I型感情障害)を有し入退院を繰り返していた実父A(当時77歳)について、実母B及び医師仲間のCと共謀し、Aを殺害した殺人の事案である。 被告人及びBは、Aの介助や医療費等の経済的負担に長年苦しみ、遅くとも平成22年頃にはAの死を望むようになっていた。被告人は、厚生労働省で医師国家試験の受験資格認定審査業務に携わっていたCの指南を受けて医師免許を取得するなど特異な関係にあったところ、CとAの殺害計画を具体化させた。計画の骨子は、①Aを入院先の病院から転院を装って退院させ、②レンタルした福祉車両で東京都内のマンションに搬送し、③同所で殺害した上、④偽造した死亡診断書・死亡届を提出して火葬許可証を取得し、速やかに火葬するというものであった。 平成23年3月5日、計画どおり被告人とBがAを退院させて新幹線で搬送し、Cと合流してマンションに搬入した。Aは同日午後4時頃までに死亡し、被告人は死因を「急性循環不全」とする死亡診断書を偽造した。遺体は同月10日に火葬され、被告人はその後、Aの遺骨を当時のスワジランド王国内の空港近隣に埋めた。事件は長年発覚しなかった。 【争点】 弁護人は、Cが単独でAを殺害したものであり、被告人には共謀が成立しない旨主張した。被告人も、新幹線車内でBから計画中止を訴えられたことから、Cに中止を申し出て了承を得たが、Cが無断でAを殺害した旨供述した。 裁判所は、①退院時のAの健康状態は良好であり短時間で自然死する可能性は見出せないこと、②死亡診断書が偽造されていること、③殺害前後の手続が当初の計画どおり手際よく進行していること、④事後のメールにCへの非難や後悔の念がなくむしろ感謝が示されていること等から、被告人の供述は信用できず、被告人・C・Bの三者の共謀に基づく殺害と認定した。 【判旨(量刑)】 裁判所は、医師としての知識・経験を駆使した殺害計画の巧妙さ・悪質さは他に類を見ないとし、被告人が退院手続、搬送、死亡診断書偽造等の不可欠な役割を主体的・主導的に果たしたと評価した。他方、長年の介護負担や父の精神障害による苦労に鑑み動機・経緯には同情の余地があるとしつつも、殺害しなければならないほど追い詰められていた事情はなく、典型的な介護殺人とも事案を異にするとした。以上を踏まえ、有期懲役刑の下限付近には位置づけられないが上限付近に位置づけるほど特別に重い部類でもないとして、求刑懲役20年に対し、懲役13年を言い渡した(未決勾留日数430日算入)。