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【事案の概要】 平成27年4月に京都府立高校に入学し、自転車競技未経験のまま自転車競技部に入部した原告A(当時16歳)は、同年5月10日、部活動として滋賀県内の国道の下り坂を走行中、右曲がりのヘアピンカーブを曲がりきれずにガードレールに衝突し、側溝に転落した。この事故により原告Aは胸椎破裂骨折及び胸髄損傷の傷害を負い、両下肢全廃及び神経因性膀胱障害の後遺障害(自賠法施行令別表第2第1級相当)が残った。 事故当日は部員10人で往復約90kmのコースを走行しており、顧問のD教諭は、往路で他の1年生より速く走行できた原告Aを上級生グループに編入した。休憩地点からの下り坂において、原告Aは上級生4人に続いて出発し、上級生らが時速約50kmで走行するのに追従したが、入部1か月の初心者である原告Aには急な下り坂でのヘアピンカーブを安全に走行する技量が不足しており、減速しきれずに事故に至った。原告A及びその父である原告Bは、D教諭の指導上の注意義務違反を主張し、国家賠償法1条1項に基づき損害賠償を求めた。 【争点】 主な争点は、①D教諭が原告Aを上級生とともに走行させるに際して特別な指導を行うべき注意義務に違反したか、②過失相殺の可否、③損害額であった。被告は、D教諭が「ここからの下りは練習ではない」と指導し、原告Aには上級生に追いつこうと思わないよう、上級生らには普段よりゆっくり走行するよう個別指導したと主張した。 【判旨】 裁判所は、D教諭の注意義務違反を認めた。まず予見可能性について、D教諭が原告Aを1年生から抜擢して上級生グループに入れれば、上級生らが原告Aを配慮不要の相手と考えて普段どおりの速度で走行し、原告Aが上級生に合わせて走行することは容易に予見できたと判断した。また、入部1か月の初心者が上級生と同じ速度で急な下り坂のヘアピンカーブを走行すれば、制御不能に陥る危険があることも容易に想定できたとした。 D教諭の個別指導の有無については、上級生G・Hがそのような指導を受けた記憶がないと証言していること、実際に上級生らが時速約50kmで走行していたこと等から、D教諭の証言は採用できないとした。結果として、D教諭は原告Aを上級生とともに走行させることに伴う特別な指導を行うべき注意義務に違反したと認定した。 過失相殺については、原告Aが転倒しない速度の感覚をつかむ練習機会を与えられていなかったこと等から、いずれの被告主張も採用しなかった。 損害額について、原告Aの後遺障害逸失利益を約6611万円、後遺障害慰謝料を2800万円等と認定し、スポーツ振興センターの障害見舞金等を控除した結果、原告Aに対し約7177万円、原告Bに対し220万円の支払を命じた。