損害賠償請求控訴事件
判決データ
- 事件番号
- 令和4ネ265
- 事件名
- 損害賠償請求控訴事件
- 裁判所
- 広島高等裁判所
- 裁判年月日
- 2023年2月15日
- 裁判種別・結果
- 破棄自判
- 原審裁判所
- 広島地方裁判所_福山支部
AI概要
【事案の概要】 本件は、静岡県警察の警部補(当時31歳)が自殺したことについて、その父母である被控訴人らが、自殺は過重な業務に起因するうつ病等の精神疾患によるものであり、静岡県警察には安全配慮義務違反があったと主張して、静岡県(控訴人)に対し、国家賠償法1条1項に基づき、各275万円の損害賠償を求めた事案の控訴審である。警部補は交番長として勤務していたが、連続窃盗事件の捜査、実習生の指導、異動のための引継ぎ作業、さらに国際交流プログラム(GSE)参加のための事前研修や準備が重なり、自殺前1か月間の時間外勤務は110時間を超えていた。また、ストレス診断では最低評価の「E(かなり悪い)」との結果が出ていた。原審は被控訴人らの請求を各110万円の限度で認容したため、控訴人が控訴した。 【争点】 主な争点は、①警部補の自殺と業務との因果関係(公務起因性)、②静岡県警察の安全配慮義務違反の有無、③損害額、④過失相殺の可否である。特に、時間外勤務時間の認定方法(上司による修正前後いずれを基準とするか、GSE事前研修の公務性、休憩時間の取扱い等)や、業務の質的過重性の評価、自殺当日の家庭内での出来事の影響が争われた。 【判旨】 控訴審は原判決を取り消し、被控訴人らの請求をいずれも棄却した。まず、時間外勤務時間の認定について、警部補が作成した時間外勤務実績報告書の上司修正前の記載を基本的に採用し、GSE事前会合への参加時間(1回約4時間)も業務として考慮すべきとした。一方、妻とのメールの送受信時間に基づく勤務時間の認定や、事前会合への移動時間の算入は認めなかった。その結果、発症前1か月間の時間外勤務は110時間超と認定した。精神疾患の発症については、ストレス診断結果や家庭での食欲減退・自己評価低下等の症状から、遅くとも平成24年3月上旬にはうつ病エピソード等を発症していたと認めた。しかし、業務の質的過重性については、連続窃盗事件の捜査、実習生指導、異動引継ぎ、GSE準備のいずれも一定の負荷は認めつつ、個別には質的に過重とまではいえないと判断した。総合評価として、認定基準上の強度の負荷には該当せず、精神疾患の発症時期も特定困難であることから、業務と自殺との相当因果関係は認められないとした。さらに、安全配慮義務違反についても、ストレス診断結果が組織に共有されない仕組みであったこと、家族からの申告もなかったこと、自殺当日の家庭内の出来事を契機とした唐突な行動であったこと等から、静岡県警察に予見可能性はなかったと結論づけた。