窃盗、道路交通法違反、殺人
判決データ
AI概要
【事案の概要】 被告人は、刑務所を出所した後、新しい人間関係やなじみのない土地、未経験の解体土木作業への漠然とした不安から、再び長く刑務所に入りたいと考え、犯罪を計画した。令和2年5月31日午前7時30分頃、福島県郡山市内の駐車場で準中型貨物自動車(トラック)1台を窃取し、同日午前7時55分頃、同県田村郡の道路において、清掃ボランティアのため道路を歩いていた被害者A(当時55歳)及びB(当時52歳)に対し、無免許で運転する同トラックを時速約60〜70kmまで加速させながら左側に寄せて衝突させ、2名を殺害した。被告人は衝突後、救護措置を講じることなくそのまま逃走した。第一審(裁判員裁判)は被告人を死刑に処したが、被告人側が量刑不当等を主張して控訴した。 【争点】 主な争点は、(1)被告人に殺意が認められるか、(2)被害者2名に対する各殺人罪が観念的競合か併合罪か、(3)死刑選択の当否であった。殺意について弁護側は、被告人は人をはねて殺そうとまでは考えていなかった、刑務所に戻るために殺人を犯せば死刑になる可能性があるから殺意と動機が矛盾する、衝突が偶然の結果に過ぎない等と主張した。 【判旨(量刑)】 仙台高裁は、殺意の認定及び観念的競合の適用については原判決に誤りはないとした。約2500kgのトラックを時速約60〜70kmまで加速させ、ガードレール脇で逃げ場のない被害者らに正面から衝突させた行為は、被害者らをほぼ確実に死亡させる危険性があり、被告人がその危険性を認識しながら意図的に犯行に及んだと認められるとして、殺意を肯定した。 しかし、死刑選択の当否については原判決を破棄し、無期懲役を言い渡した。その理由として、(1)動機は身勝手かつ自己中心的であるが、他人の生命侵害自体から利益を得ようとしたものではなく、漠然とした不安から自棄的に刑務所に入りたいと考えたものであり、死刑の当否という究極的場面では斟酌の余地が全くないとまではいえないこと、(2)計画は犯行直前に場当たり的に立てられたもので、殺害を企図して生命侵害実現のための方策を検討したものではないこと、(3)犯行態様は死亡の危険性が極めて高いものの、被害者2名の生命侵害が確実な態様とまではいえないこと、(4)殺意は認知的殺意(死亡の蓋然性の認識)にとどまり、殺害の意欲までは認められないこと、(5)2件の殺人罪は1個の行為として重なり合いがあること等を指摘した。過去の裁判例との公平性の観点からも、被害者2名の事案で死刑が選択されるのは高度の計画性や殺害を意欲した強固な殺意がある場合が多く、本件はこれらに匹敵するとまではいえないとして、死刑選択は不合理と判断した。