発信者情報開示請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 本件は、動画の著作権を有する原告が、氏名不詳者(本件発信者)がP2P方式のファイル共有ソフトウェア「BitTorrent」を使用して原告の動画を送信可能化したことにより、送信可能化権を侵害されたと主張して、インターネットサービスプロバイダである被告(KDDI株式会社)に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限法)5条1項に基づき、発信者の氏名・住所・メールアドレス等の開示を求めた事案である。 BitTorrentは、特定のファイルを細分化した「ピース」をネットワーク上のユーザー間で分散共有する仕組みであり、ファイルをダウンロードしたユーザーは、クライアントソフトを停止させるまで自動的に他のユーザーへのアップロードが可能な状態に置かれる。原告は、調査会社に依頼してBitTorrentのクライアントソフト「μtorrent」を用いた調査を行い、令和4年7月7日に被告の提供するIPアドレスの割当てを受けた本件発信者が原告の動画ファイルのダウンロード及びアップロードを行っていたことを確認した。 【争点】 本件の争点は、権利侵害の明白性、具体的には調査会社による調査の信用性である。被告は、調査会社がIPアドレス特定に関する専門技術を有するか不明であること、また市販ソフトウェアによりIPアドレスの偽装が可能であるため第三者による偽装の可能性が排除できないことを指摘し、権利侵害の明白性を争った。 【判旨】 裁判所は、原告の請求を認容した。まず、BitTorrentの仕組み及び調査結果から、本件発信者が動画ファイルのピースをダウンロードし、不特定多数の者からの求めに応じて自動的に送信し得る状態にしたことが認められるとした。そして、違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情もないことから、原告の送信可能化権の侵害は明白であると判断した。 被告の主張については、調査会社の専門技術の有無やIPアドレス偽装の可能性といった抽象的な事情を指摘するにとどまり、調査の信用性を左右する具体的事情を主張するものではないと退けた。他方、原告側は調査の具体的内容を詳細に説明し、IPアドレス等が表示されたスクリーンショットを裏付け資料として提出しており、これらを踏まえれば調査の信用性は覆らないとした。また、原告が発信者に対する損害賠償請求を予定していることから、開示を受けるべき正当な理由も認められるとして、発信者情報の開示を命じた。