発信者情報開示請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 原告は、歯科医院を経営する夫が医院付近の路上を走ってくる様子をスマートフォンで撮影し、「麻酔待ちの間にご近所に菓子折り渡しに走ってる。田舎すぎて。笑」とのテロップを付した約15秒の動画を作成して、インスタグラムのストーリーズに投稿した。原告のアカウントはいわゆる鍵アカウントであり、当時約30名のフォロワーのみが閲覧可能な状態であった。 ところが、氏名不詳者が上記動画の一場面を静止画として切り取った画像2枚を、被告(グーグル・エルエルシー)が運営するGoogleマップ上に、原告の夫が経営する歯科医院の写真としてアップロードした。原告は、この投稿が原告の著作権(複製権・公衆送信権)を侵害するものであるとして、プロバイダ責任制限法5条1項に基づき、被告に対して発信者情報(電話番号・メールアドレス)の開示を求めた。 【争点】 ①本件動画及び投稿画像の著作物性、②原告による黙示の利用承諾の有無、③著作権法41条(時事の事件の報道のための利用)の適用の有無、④発信者情報開示を受ける正当な理由の有無が争われた。被告は、約15秒の短い動画でカメラアングルもほぼ固定であり創作性がないこと、鍵アカウントであっても転載禁止の注記がないことから黙示の承諾があったこと、投稿画像は医療事故につながりかねない様子を捉えた「時事の事件」の報道に当たること等を主張した。 【判旨】 裁判所は、原告の請求を全部認容した。 第一に、著作物性について、本件動画は、夫が走っている様子が画面中央に映るようカメラ位置を低めに設定し、道路・空・住居といった背景がバランスよく写り込む構図で撮影した上、状況を端的に説明するテロップを加える編集を施したものであり、撮影方法や編集等に工夫が凝らされているとして、映画の著作物としての著作物性を認めた。静止画として切り取られた投稿画像についても同様に著作物性を認めた。 第二に、黙示の承諾について、本件動画は鍵アカウントで投稿され、かつ24時間で消滅するストーリーズに投稿されたものであることから、転載禁止の注記がないことをもって第三者による一切の利用を承諾したとはいえないとして、被告の主張を退けた。 第三に、著作権法41条の適用について、投稿画像からは出来事の時期すら明らかでなく、地図アプリで歯科医院をクリックした場合に限り表示されるにすぎないことから、「時事の事件」にも「報道」にも該当しないと判断した。テロップの内容についても、一般の利用者の普通の注意と読み方を基準とすれば、医療事故につながりかねない様子であるとは理解されないとした。 以上により、著作権侵害の明白性及び発信者情報開示の正当な理由を認め、被告に対し発信者情報の開示を命じた。