AI概要
【事案の概要】 被告人(犯行当時42歳)は、生活保護を受給しながら定職に就かず、パチンコや飲酒に費消する生活を送っていた。平成29年3月1日、受給したばかりの生活保護費約8万2000円の大半をパチンコに費消し、借金等合計6万6000円の返済に窮した。同日午後8時頃、被告人は、近隣に住む高齢夫婦(当時83歳の夫A及び80歳の妻B)方に自宅から持参した包丁を携えて侵入し、まずAの頸部を包丁で突き刺して殺害し、続いてBの頸部を包丁で複数回突き刺し、包丁が折れるとA方にあった小刀に持ち替えてさらにBの頸部を刺して殺害した。その後、居間のトートバッグ内及び車庫の自動車内を物色し、現金入りの財布を奪取した。被告人は犯行3日後に自首した。本件は差戻後の裁判員裁判であり、差戻前第一審は強盗目的を否定して殺人罪・窃盗罪として無期懲役としたが、控訴審が事実誤認を理由に破棄差戻しとしていた。 【争点】 (1)被告人に強盗目的があったか、(2)犯行当時の責任能力(完全責任能力か心神耗弱か)、(3)死刑選択の当否が争われた。弁護人は、被告人が軽度知的障害(IQ65)により同時に二つ以上の目的を持って行動する「マルチタスク」が困難であり、Bへの怒りによる殺害目的が先にあったため強盗目的との併存は困難であると主張した。また、複雑性PTSDに伴う解離性症状により心神耗弱であったとも主張した。 【判旨(量刑)】 裁判所は、まず破棄判決の拘束力について検討し、弁護人が新たに提出したC医師の「マルチタスク」に関する証言は、精神医学上確立された概念とはいい難く、根拠として挙げられた医学論文や裁判例調査も見解を裏付けるものとは評価できないとして採用せず、実質的な証拠関係の変動はないと判断した。その上で、被告人が経済的に困窮していたこと、殺害直後に手に血が付いた状態でトートバッグ内を物色していること、犯行後すぐに飲食店のツケを支払っていることなどを総合し、殺害時点で強盗目的を有していたと認定した。責任能力については、C医師の鑑定に基づき軽度知的障害及びギャンブル障害を認めつつも、犯行時の合目的的かつ一貫した行動、違法性の認識に基づく証拠隠滅行為などから完全責任能力を認めた。量刑については、2名の生命が奪われた結果の重大性、執拗かつ残虐な殺害態様、身勝手な犯行動機、犯行後の反省の不十分さなどを考慮し、軽度知的障害の影響、自首、不遇な生い立ち等の有利な事情を最大限斟酌してもなお、死刑の選択は真にやむを得ないとして、被告人を死刑に処した。