AI概要
【事案の概要】 令和元年7月21日施行の第25回参議院議員通常選挙に際し、広島県山県郡の町議会議長であった被告人が、広島県選出議員選挙に立候補予定のAの選挙運動者として、Aに当選を得しめる目的をもって、投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬として供与されるものであることを知りながら、平成31年3月23日頃、Aの配偶者であるFから現金20万円の供与を受けたとして、公職選挙法違反(被買収)に問われた事案である。被告人はFから現金入りの封筒を差し出された際「具合悪いです。」と受取りを拒否し、Fが立ち去った後に追いかけたが間に合わなかった。その後、封筒に「置き逃げ!! 返せ!!」と記載し、一時的に和ダンスに保管した後、金庫に移し替えた。なお、本件は当初不起訴処分とされたが、検察審査会の起訴相当議決を経て起訴されたものである。 【争点】 主な争点は、Fが現金を被告人方に置いて立ち去った後、被告人に本件現金を受領する意思(自由に処分し得るものとして自己の所得に帰属せしめる意思)があったと認められるかである。被告人は、町議会議長としてFとの関係を維持する必要があり、返還の名目や機会を見計らううちに機会を失っただけで、終始返還の意思があったと主張した。また、弁護人は、検察官が捜査協力と引き換えに不起訴を暗示する違法な取調べを行った上で起訴したもので公訴権の濫用であると主張した。 【判旨(量刑)】 裁判所は、被告人がFを追いかけたり封筒に「返せ」と記載した行動は返還意思をうかがわせるものの、その後約1年間にわたりFと直接会う機会や秘書を通じた返還、郵送等の手段があったにもかかわらず、返還に向けた具体的行動を一切とっていないことを重視した。被告人がFとの関係維持のため返還が困難と認識していたこと、和ダンスから金庫に移し替えたこと、さらに祝賀会での祝い金等の別名目で現金を渡す方法を検討していたことは、もはや返還ではなく本件現金を一旦自己のものとした上で別目的に使用するものであると認定した。以上から、被告人には消極的ながらも受領の意思が認められると判断した。公訴権濫用の主張については、被告人が当初から積極的に捜査に協力し事実をありのまま供述していた経緯から、検察官の働きかけによって供述したとはいえず、前提を欠くとして退けた。量刑については、選挙の公正を直接侵害する悪質で重い類型の犯行であるが、受供与の態様が受動的・消極的であったこと、発覚後に議長職を辞していること、他の受供与者との処分の公平性を踏まえ、罰金10万円(求刑罰金20万円)及び現金20万円の没収とした。