不当利得返還、同反訴、損害賠償請求控訴事件
判決データ
- 事件番号
- 令和4ネ10049
- 事件名
- 不当利得返還、同反訴、損害賠償請求控訴事件
- 裁判所
- 知的財産高等裁判所
- 裁判年月日
- 2023年3月14日
- 裁判官
- 本吉弘行
- 原審裁判所
- 東京地方裁判所
AI概要
【事案の概要】 本件は、音響効果会社(一審被告・株式会社スワラ・プロ)の元従業員である一審原告が、退職時に締結した退職及び業務委託に係る合意(本件合意)をめぐり、複数の請求が併合審理された事案の控訴審判決である。 一審原告は、本件合意の締結過程における一審被告側の行為が不法行為に当たる、又は本件合意が公序良俗等に反し無効であると主張し、損害賠償金又は不当利得金646万4500円の支払を求めた(第1事件本訴)。これに対し、一審被告は、一審原告に委託業務の債務不履行があるとして、音編集ソフト「プロツールス」のセッションデータの引渡し及び違約金412万円の支払を求め(第1事件反訴)、さらに、一審原告が一審被告の業務上の音源データを無断で持ち出し使用したとして、損害賠償金2000万円(一部請求)、音源データの使用差止め及び廃棄を求めた(第2事件)。 原審は、一審原告の本訴請求を棄却し、一審被告の反訴請求のうち違約金412万円、第2事件請求のうち違約金550万円をそれぞれ認容した。双方が控訴し、一審被告は控訴審でセッションデータ引渡しの代償請求等を追加した。 【争点】 (1) 本件合意の錯誤無効の成否:一審原告は、一審被告の顧問弁護士が被告音源データの著作権侵害リスクについて虚偽の説明をし、錯誤に陥って本件合意を締結したと主張した。 (2) プロツールスセッションデータの引渡義務の有無:セッションデータが本件合意書第14条の「成果物」に該当するか。 (3) 被告音源データの無断使用に基づく違約金の範囲:使用音源の数え方(使用した音源の数か使用回数か)、追加の無断使用の推認の可否。 【判旨】 知的財産高等裁判所は、双方の控訴及び一審被告の追加請求をいずれも棄却し、原判決を維持した。 錯誤無効の主張について、裁判所は、被告音源データには爆発音だけでも約2000種類が含まれ、シンセサイザーによる合成音は100を超える設定項目があり、生音や環境音も録音場所・時間帯の選択や編集を経て制作されるなど、創作性を発揮させる余地が十分にあると認定した。したがって、著作権侵害の可能性は否定できず、顧問弁護士のメールにおける「場合(程度)によっては、当社の著作権を侵害するものである可能性が高い」との記載は、特定の条件が生じた場合の著作権侵害認定の可能性を述べたものにすぎず、虚偽の説明には当たらないとして、錯誤の主張を排斥した。 セッションデータの引渡義務について、裁判所は、セッションデータは放映用音源データとは別のファイルであり、顧客にも納入されないものであること、音響効果業務を行う事業者のノウハウが詰まっており第三者への開示が予定されていないこと、本件面談で顧問弁護士が「パーツで渡さなくていい」と回答していたこと、一審被告がセッションデータの引渡しを求めずに報酬を全額支払っていたこと等を総合し、セッションデータは本件合意書第14条の「成果物」に該当せず、引渡義務はないと判断した。 被告音源データの無断使用については、本件合意書第10条4項の「使用した1音源あたり金50万円」の文言は使用回数によっても違約金額を左右させる趣旨であるとして、同一音源の別作品での使用も別個にカウントする原審の判断を維持した。