損害賠償請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 福島県南相馬市小高区に居住していた原告ら(約180世帯)が、平成23年3月11日の東北地方太平洋沖地震に伴い発生した東京電力福島第一原子力発電所事故(本件事故)により、避難生活を強いられ、地域コミュニティを喪失し「ふるさと」を奪われたと主張して、被告東京電力に対し原賠法3条1項等に基づき、被告国に対し国賠法1条1項に基づき、連帯して一人当たり2200万円(地域コミュニティ喪失慰謝料2000万円+弁護士費用200万円)及び遅延損害金の支払を求めた集団訴訟である。小高区は本件発電所の北方約10〜20kmに位置し、事故後全域が警戒区域に指定され、平成28年7月12日まで約5年4か月にわたり避難指示が継続した。避難指示解除後も住民登録人口は事故前の約52%、居住人口は約30%にとどまり、小中学校の児童生徒数も大幅に減少するなど、地域社会は著しく変容した。なお、一部原告らについては先行訴訟(福島地裁、東京地裁)の確定判決との関係で二重起訴の問題が生じた。 【争点】 1. 一部原告らの訴えの適法性(二重起訴の問題) 2. 被告国の責任(地震による原子炉破損に関する規制権限不行使、津波対策に関する規制権限不行使、事故時運転操作手順書に関する規制権限不行使、事故後の避難指示義務違反・情報提供義務違反) 3. 被告東電の民法709条に基づく不法行為責任の成否 4. 原告らの損害額(避難生活による精神的損害の慰謝料、地域コミュニティ喪失等による精神的損害の慰謝料) 5. 被告東電の弁済の抗弁 【判旨】 裁判所は、まず二重起訴について、先行訴訟と本件訴訟は訴訟物が同一であり、前訴で明示的に除外した残部の請求であることを確知できないとして、5名の原告の訴えを却下した。 被告国の責任については、(1)地震による原子炉破損の主張に対し、日本原子力学会やIAEAの調査結果に基づき、地震により原子炉が破損したとは認められないとした。(2)津波対策に関する規制権限不行使については、推進本部の長期評価は科学的コンセンサスを前提とするものではなく、直ちに規制権限を行使すべき精度と確度を備えた知見とは認められないとし、仮に長期評価に基づく防潮堤を設置していたとしても、本件津波は試算の前提をはるかに超える規模であったため、本件事故の発生を防止できたとは認められないとして、結果回避可能性を否定した。(3)事故時運転操作手順書、(4)事故後の避難指示・情報提供についても、いずれも国賠法上の違法は認められないとして、被告国の責任を全面的に否定した。 被告東電については、原賠法3条1項に基づく無過失責任を認める一方、原賠法は原子力損害について一般不法行為責任の適用を排除していると解し、民法709条に基づく責任は否定した。 損害額について、避難生活による精神的損害の慰謝料(月額10万円×85か月分)は、直接請求手続又はADR手続により賠償済みと認定した。その上で、避難生活による精神的損害では評価し尽くされない損害として、混乱の中で突然避難を強いられたこと及び避難生活終了後も平穏な日常生活が回復しないことを基礎事情に、一人当たり280万円(弁護士費用28万円を加え合計308万円)の慰謝料を認容した。ただし、本件事故当時に小高区に生活の本拠を置いていたと認められない原告や、既払賠償金との関係で損害が填補済みと認められる原告については請求を棄却した。