AI概要
【事案の概要】 本件は、ネパール国籍の男性Aが、占有離脱物横領罪の容疑で通常逮捕され、警察署の留置施設に留置中、留置担当官により保護室に収容された上、ベルト手錠・捕縄・新型捕縄の3種の戒具を用いて約2時間にわたり身体を拘束された後、東京地方検察庁に護送され、検察官事務取扱検察事務官による取調べ中に意識を消失して死亡した事案である。Aの妻である原告が、留置担当官及び検取事務官の注意義務違反により死亡したと主張して、被告東京都及び被告国に対し、国家賠償法1条1項に基づき約6182万円の連帯支払を求めた。Aは来日後にネパールレストランで調理師として勤務していたが、死亡の約1か月前に解雇され浮浪生活状態にあった。逮捕翌朝、寝具搬送の際に居室から出ようとして留置担当官の制止に強く抵抗し暴れたため保護室に収容され、十数名の留置担当官が取り囲む中で3種の戒具が装着された。拘束中もAは戒具を外そうと動き続け、壁に頭を打ち付けて出血するなどした。護送準備時にベルト手錠を外した際、Aの両手首から先は赤黒く膨脹し、手錠接触部分には白い跡が残っていた。 【争点】 主な争点は、①留置担当官による戒具使用の違法性(使用要件充足、血液循環阻害防止義務違反、医師の意見聴取義務違反、使用中止義務違反、病院搬送義務違反)、②検取事務官の注意義務違反の有無、③因果関係の有無、④国賠法6条の憲法・自由権規約違反の有無、⑤ネパールとの相互保証の有無、⑥損害額、⑦原告の相続による請求権取得の有無である。死因についても、肺動脈血栓症、循環血液量減少性ショック・急性腎不全の競合、筋挫滅症候群による高カリウム血症の各見解が対立した。 【判旨】 裁判所は、戒具使用の開始自体は適法と判断した。Aが留置担当官の制止に強く抵抗し暴れ続けていたことから、逃走・自傷他害・設備損壊のおそれがあり、法213条1項の使用要件を満たすとした判断に不合理な点はないとした。血液循環阻害防止義務違反や使用中止義務違反についても、証拠上認定できないとして否定した。しかし、病院搬送義務違反については、午前9時頃にベルト手錠を外した際にAの両手が赤黒く膨脹していたことを留置担当官が現認しており、法201条1項1号に基づき速やかに病院に搬送して医師の診察を受けさせるべき注意義務があったにもかかわらず、検察官送致を優先してこれを怠ったことは国賠法上違法であると認めた。検取事務官については、戒具の使用経緯を把握していたとは認められず、注意義務違反は否定された。死因については、筋挫滅症候群による高カリウム血症と認定し、午前9時頃に病院搬送していれば腎透析等の措置により死亡を回避できたとして因果関係を肯定した。国賠法6条については合憲・条約適合と判断した上で、ネパールのヤータナ賠償法により相互保証を認めたが、同法の賠償上限等を考慮し、ネパールの実務上の先例に基づく100万ルピー(日本円で100万3000円)を賠償額の上限とした。結論として、被告東京都に対し100万3000円及び遅延損害金の支払を命じ、被告国に対する請求は棄却した。