発信者情報開示請求事件
判決データ
AI概要
【事案の概要】 映像の企画・制作等を目的とする原告(株式会社ケイ・エム・プロデュース)が、原告の著作権を有する動画の複製物がビットトレント(P2P方式のファイル共有ソフト)を通じて送信可能化されたとして、プロバイダ責任制限法5条1項に基づき、経由プロバイダである被告(NTTコミュニケーションズ)に対し、著作権(公衆送信権)侵害に係る発信者情報(氏名・住所)の開示を求めた事案である。原告は、調査会社(株式会社HDR)が独自開発した著作権侵害検知ソフトウェアを用いて、ビットトレントネットワーク上で原告動画のファイルを共有するピアのIPアドレス等を特定したと主張した。 【争点】 主な争点は、(1)本件各通信による情報の流通によって原告の著作権が侵害されたことが明らかといえるか、(2)本件各情報が原告の権利の侵害に係る発信者情報であるか、(3)原告に発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか、の3点である。特に争点(1)に関し、被告は調査会社の検知システムの信頼性を争い、調査結果に存在しない通信が多数含まれている等の問題点を指摘した。 【判旨】 請求棄却。裁判所は、争点(1)について、調査会社の検知ソフト及び調査結果の信頼性に重大な疑問があるとして、著作権侵害が明らかとは認められないと判断した。具体的には、被告が原告の示した通信情報を調査したところ、(a)PPPoE方式41件・IPoE方式2件について通信自体が存在せず、うち1件は技術仕様上契約者に割当不可能なポート番号であったこと、(b)同一IPアドレスを同時刻に割り当てられた2人の契約者が同一ファイルを共有していたという非現実的な結果が2組あったこと、(c)同一IPアドレスを割り当てられた複数の契約者が同一ファイルを共有していたとされる144件があり確率的にほとんどあり得ないこと、(d)誤った時刻の記録により無関係の契約者が特定された事例が6件あったこと等が認められた。原告は検知ソフトの動作試験の報告書を提出したが、裁判所は、これらの試験は短時間・少数台での実験にすぎず、実際の動作環境での反復継続した検証ではないとして、本件調査における誤記録の可能性を排除するものではないと判断した。むしろ、報告書どおりにソフトが動作するならば存在しない通信が記録されるはずがないにもかかわらず現実にそのような記録がなされていることから、ソフトが報告書記載どおりに動作していないことがうかがわれるとした。