AI概要
【事案の概要】 本件は、「皮下組織および皮下脂肪組織増加促進用組成物」に関する特許権(特許第5186050号)を有する原告(医療機器販売会社)が、美容医療を営む被告(個人事業主の医師)に対し、被告が製造している血液豊胸用の薬剤が本件特許発明の技術的範囲に属するとして、民法709条及び特許法102条2項に基づき1000万円の損害賠償を請求した事案である。本件特許発明は、自己由来の血漿、塩基性線維芽細胞増殖因子(b-FGF)及び脂肪乳剤を含有する豊胸用組成物に係るものである。被告は、血小板を完全に除去した血漿(NCP)からなる無細胞プラズマジェルに成長因子等を混合した薬剤(A剤)と、乳化剤・栄養剤等を含有する薬剤(B剤)の2種類を別々に患者の体内に投与しており、これらを事前に調合した薬剤は製造していないと主張した。なお、本件特許権は令和3年1月25日に特許料未納により消滅している。 【争点】 主要な争点は、(1)被告が無細胞プラズマジェルのほかトラフェルミン(b-FGF)とイントラリポス(脂肪乳剤)を調合した単一の薬剤を製造したか、(2)無細胞プラズマジェルが本件発明の「血漿」に該当するか、(3)被告の薬剤製造が医療行為に該当し特許権の効力が及ばないか、(4)本件発明が産業上利用可能な発明に該当するか、(5)サポート要件違反の有無、(6)被告の令和2年11月までの行為が試験研究に該当するか、であった。 【判旨】 裁判所は、争点(1)について検討し、原告の請求を棄却した。裁判所は、被告が令和3年4月に本件被施術者に対しトラフェルミン及びイントラリポスを投与した事実は認定したものの、これらの成分を事前に調合した単一の薬剤として投与したことは認められないと判断した。具体的には、被施術者に交付された書面にはトラフェルミン及びイントラリポスの投与が前提とされる記載はあるが、これらを調合した上で投与することまでは記載されていないとした。また、被告のホームページにおける「成長因子と乳化剤を組み合わせております」との記載についても、施術の優位性をアピールする文脈での記載にすぎず、身体にこれらの薬剤がいずれも投与されるという以上の意味は持たないと読むのが自然であるとした。さらに、被告が2種類の薬剤を別々に投与することを被施術者に説明しなかった点についても、複数の有効成分を別々の薬剤に分けて投与することを説明しないことが不自然とまではいえないとした。加えて、被告が血漿と他の薬剤を事前に混合すると凝固等が生じるという知見を得ていたことも考慮し、被告が構成要件Aを充足する薬剤を製造したとは認められないとして、その余の争点を判断するまでもなく原告の請求を棄却した。