AI概要
【事案の概要】 本件は、「治療薬のCNS送達」と題する特許(特許第6466538号)に対する特許無効審判請求について、特許庁が請求項1~8及び12に係る部分の請求不成立とした審決の取消訴訟である。本件特許は、リソソーム酵素に関する補充酵素を含む薬学的組成物であって、リソソーム蓄積症に罹患した対象に脳室内投与されることを特徴とし、補充酵素の濃度が5~100mg/ml、リン酸塩が50mMまで、pHが5.5~7.0であることを規定するものである。原告は、優先権に関する認定判断の誤り、実施可能要件違反、サポート要件違反、明確性要件違反及び進歩性(甲2~甲4の各発明を主引用例とするもの)を取消事由として主張した。 【争点】 主な争点は、①本件出願が米国基礎出願に基づく優先権の利益を享受できるか(甲6論文が先行技術文献となるか)、②リン酸塩濃度が低い場合等における実施可能要件・サポート要件・明確性要件の充足性、③甲2発明(GALCの脳室内投与用組成物)、甲3発明(リソソーム蓄積症のための脳室内酵素輸送に関する組成物)又は甲4発明(リソソーム蓄積症治療のための脳室内投与用組成物)を主引用例とし、甲6発明やエリオットB溶液の技術常識等を適用した場合の進歩性の有無である。 【判旨】 知財高裁は、原告の請求を棄却した。まず優先権について、基礎出願の明細書には髄腔内(IT)投与の実施例はあるが脳室内(ICV)投与の具体的な送達効果や治療効果の記載がなく、当時の技術常識ではICV投与とIT投与の実験データを直ちに同一視できなかったとして、優先権の利益を否定し、甲6を先行技術文献と認めた。この点で審決の優先権判断には誤りがあるとした。しかし、実施可能要件については、本件明細書の実施例3・5・10等により、本件発明の組成物のICV投与で酵素が脳深部組織に分布し治療効果が確認された記載があるとして違反を否定した。サポート要件・明確性要件違反の主張も退けた。進歩性については、甲6を先行技術文献として考慮した上で判断し、いずれの主引用例との関係でも、タンパク質は高濃度で凝集する傾向があり凝集タンパク質は免疫原性が高まるという技術常識のもと、各主引用例の組成物の補充酵素濃度を高めることの動機付けが認められず、甲6発明(製剤・ビヒクル)やエリオットB溶液の技術常識を適用しても、本件発明の特定の液性と組成(pH5.5~7.0、酵素濃度5~100mg/ml、リン酸塩50mMまで)を備えるようにすることは当業者が容易に想到し得たものではないと判断し、進歩性を肯定した。